「夫婦の哀しさが可笑しさに繋がっていかないんだよなぁ」団地 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
夫婦の哀しさが可笑しさに繋がっていかないんだよなぁ
阪本順治監督、藤山直美主演。
この組み合わせは2000年に映画賞を席巻した組み合わせなので、期待は大。
今回は芸達者の岸部一徳も加わり、藤山直美と夫婦役だというのだから、面白くならないわけがない・・・はず。
漢方薬店を廃業して大阪郊外の団地に引っ越してきた山下清治・ヒナ子夫妻(岸部一徳、藤山直美)。
引っ越してきて半年。
引っ越してきたのは、一人息子の事故死がキッカケ。
団地の井戸端雀たちの噂は絶えない。
そんな中、自治会長候補に他薦された清治は、選挙で落選してしまう。
「清治って意外と人望なかったんやねぇ・・・」という当の推薦者の一言に傷ついた清治は、床下収納に隠れて人目を避けるようになってしまった。
そんな生活が続くうちに、井戸端雀たちの間で「清治さんは殺された」という噂が広まってしまう・・・
というハナシ。
こうやってまとめてみると、2011年の『大鹿村騒動記』のように小さなコミュニティに巻き起こる騒動のようで、なんだか可笑しげ、笑えるコメディって感じがする。
が、なんだか出来上がった作品は、うまくまとまっていない。
これは、もう脚本がガタピシしているせい。
時間を現在から過去、さらに大過去と行ったり来たりして、とりとめがない。
わざわざ行き来して進めるハナシでもなかろう、とも思うのだが、井戸端雀たちと同じく観客をも目くらまそうという感じで、これがいただけない。
観客としては、山下清治・ヒナ子夫妻の気持ちに。すーっとはいっていきたいところなのに、はいっていけなくなってしまう。
山下夫妻が交わす言葉は、軽妙のようでいて、その実、息子の急死が陰に隠されていて、かなり哀しいのだけれど、そこいらあたりのリアリティがどことなく欠如している。
たぶん、これは背景のせい。
ふたりが暮らす団地生活に、生活感が少ないからだろう。
お好み焼きを副菜にして晩御飯を食べるというような描写はあるものの、部屋の様子そのものに存在感が希薄なのだ。
結果として、リアリティがあるのは、
ヒナ子に扮した藤山直美による「ひとりバーコード」のシーン(これは図らずも落涙)と、
清治・ヒナ子による5000人分の漢方丸薬づくりのシーン(これは本当に作っているからだろう)だけということになってしまった。
また、リアリティの欠如が、結果的に、最後のあっと驚く展開を活かしきれなくしてしまった。
この仰天(字のとおり点を仰ぎみる)展開は、故・桂枝雀が分類した落語のオチの中では「ヘン(変)」にあたるもので、現実世界から一気に不条理世界に(これまた、文字どおり)飛んで行ってしまうべきもの。
残念ながら、映画では、もうただただ頭のなかに疑問符が「?????・・・」と並ぶだけの結果となってしまった。
(はじめから伏線が張られていたので、驚くまでに至らなかったので、もっと悪いのかも)
その後の、山下夫妻と自治会長夫妻(石橋蓮司、大楠道代)とのやり取りも、間延びしていて、興ざめ大。
この部分のテンポの悪さもあってか、エンディングの「なんたらが、なんたらした結果」登場する心温まるシーンも活きておらず、すこぶる残念無念。
と書いているうちに映画の印象がどんどん悪くなっていく・・・
書いているうちに☆半分が、どっかにいってしまいました。これも、なんたらが、なんたらしたせいやと思います