「米国のスタンダップ・コメディとジャド・アパトウがお好きなら」エイミー、エイミー、エイミー! こじらせシングルライフの抜け出し方 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
米国のスタンダップ・コメディとジャド・アパトウがお好きなら
ジャド・アパトウの映画が長いことはもう分かっているし、ひとつひとつのギャグやジョークも長くて若干しつこいのにも慣れた。この内容で125分ならアパトウ映画にしては短い方。大作映画でもないのにいっつも映画が2時間超えしちゃうのはご愛敬。
浮気癖のある父親から言われた「一夫一妻制なんてありえない」の言葉を鵜呑みに生きてきた、セックスに奔放なトンデモ女エイミーを主人公に、彼女が巻き込まれる(巻き起こす)「TRAINWRECK(大惨事)」の物語。脚本も手掛けたスタンダップ・コメディエンヌのエイミー・シュマーが、下ネタもクスリネタも人種ネタもお構いなしにやってのける。乗りに乗ってるコメディエンヌだけに、怖いものなんか何もないってくらいの弾けっぷりで、なかなか痛快。太ましい健康的なミニスカートにも好感が持てちゃう。これをサンドラ・ブロックみたいな「面白いけど結局は美人女優」が演じてしまったら意味がなくって、エイミー・シュマーみたいなキャラクターの人がやることに意義がある。美男美女の清廉潔白なロマンティック・コメディに殴り込みを挑むような内容に笑うやら引くやらやっぱり笑うやら。ティルダ・スウィントンやらエズラ・ミラーやらダニエル・ラドクリフやらマリサ・トメイやらマシュー・ブロドリックやら、大物からクセ者たちも、アパトウ印に気を大きくしてヘンテコなことをしてくれます。信用と信頼のアパトウ印。
笑い飛ばしながらも、父親との関係や死についてを割と丁寧に時間を割いて描いたところをみると、この映画って、「屈折した愛情」が物語の根幹なんだなって思う。父からの屈折した愛情と、父への屈折した愛情、姉妹間の嫉妬を孕んだ屈折した愛情と、転じて男への屈折した愛情、そして男からのストレートな愛情を屈折させてしまうエイミーの悪い癖。エイミーは問題だらけの女だけど、最初から最後までエイミーのこと憎めなくて好きでしたよ。
でも結局、映画の世界では、エイミーみたいな女性にもちゃんとマトモな男性が寄ってきてくれて(美男子でも王子さまでもないけど)、エイミーが問題だらけの行動を起こしても、ちゃんとそれを正してくれたりするんだよなぁ、現実でそれは無理だよなぁ、と思うと、やっぱりこの映画も鍵括弧つきの所謂「ロマンティック・コメディ」と変わらないんだなってそれが残念だった。どうせなら、エイミーはエイミーらしくエイミーのまま、変に改心しないで貫いてもらった方が痛快で清々しかったと、エイミーに親しみを覚えたからこそ、そんなことを思った。
日本ではこういう映画を「現代女性のリアルなホンネを描いたコメディ」って宣伝しがちなんだけど、別に過去の映画史で男性コメディアンが普通にやっていたことをたまたまエイミー・シューマーがやっているだけのこと。あんまり「女性」を強調すると、それはそれで性差別的に感じるから、ちょっとやめてほしい。