「〜鐘〜」美術館を手玉にとった男 松井の天井直撃ホームランさんの映画レビュー(感想・評価)
〜鐘〜
全米の美術館をケムに撒いた希代の天才贋作画家。
彼は何の為にその行為を行ったのか。彼へのインタビューを中心とし、彼を追い掛け:興味を持った人々のインタビュー等から次第に明らかになって行く。
予告編を観た限りでは、かなり痛快な話なのだろう…と想像していたのだが違っていた。ある意味では気が滅入る男の話でもあった。
総合失調症を患っているとゆう彼は、2年前の天災によって母親を亡くし、ひとりぼっちの日々を過ごしていた。
彼へのインタビューで少しずつ明らかになって行く母親への想い。
子供の頃から自分の才能に気付き、その子供心が抜けずにいた彼。元々は、父親を亡くした事で母親を元気付け、慈善活動と表し母親を安心させたい一心からの事だった。
早い話が、彼の性格は極度のマザーコンプレックスの塊に溢れているのだった。
だからこそ、未だに彼の心の中で肥大したその病は、なかなか消える事無く存在している。
その事実が、作品全体を重苦しいものにしている様に感じたのだ。
彼の才能を感じながらも多くの人は必ずこの言葉を彼に言う。
「オリジナルを描けばよいのに!」
彼の心の奥底に潜む病を知らない人はそうゆう意見を彼に言う。
それは至極自然の反応に他ならないのだが…。
そんな意見に彼は答える。
「女性を描いた絵は私のオリジナルですよ!」…と。
だがそれは、彼が描いた母親の姿であり。そもそも、これだけの大騒動にまで発展してしまったきっかけとなった、父親の死の悲しみを母親に味あわせたく無い…と思った彼の母親に対する強い想いからだったのだから…。
そして彼は、映画の最後である決意を語る。
それは則ち、彼の心の中に居る母親の存在は、永遠に消え去る事は無い…と言う事でもある。
その事実こそが、私の気を滅入らせ、何とも言い様も無い想いを増幅させるのである。
(2015年12月1日/ユーロスペース/シアター1)