劇場公開日 2016年5月14日

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「良作です」殿、利息でござる! アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0良作です

2016年8月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

知的

実話に基づく時代劇と言うと「武士の家計簿」が思い出されるが,原作者は同じ人である。どちらの作品も,江戸時代の封建的なルールに縛られて生きるのは,さぞ辛かっただろうという視点で描かれているのだが,これはまさに現代人的な考え方なのであって,当時の人たちは,それ以外のルールがあるなどとは夢にも思わなかったのであるから,残念ながら時代的な意識を共有するといったところまではできていなかった。これは何もこの映画に限ったことではなく,結局昨今の大河ドラマでも同様なのであるから,今更嘆いても仕方がないことである。時代劇を作って頂けるだけで有難いと思わねばならないというのが実情なのであるから。

脚本は,時代の空気のようなものまで感じさせていたとは言い難かったが,かなり健闘していたと思う。特に山崎努が演じた浅野屋の先代には本当に驚かされたし,登場人物たちには身分の上下に関係なく,それぞれ見せ場が用意してあって見事なものであった。話の流れの中には何カ所か泣けてしまったところもあった。口に出してしまっては有難味が薄れるということが世の中にはいくつもあるが,そうした価値観はいかにも日本的である。本作はその典型と言えるだろうが,信念のために親子や兄弟が長年険悪になってしまってもやむを得ないとまで覚悟するのは現代人には理解し難い行動である。ましてや,外国人に理解を求めるのは無益であろう。

役者は芸達者を揃えてあって,特に,妻夫木聡と松田龍平の演技には目を見張らされた。いずれも役になり切った怪演と言うべきであったと思う。主演は阿部サダヲなのだろうが,見終わってから頭に残るのはほとんど山崎努のことばかりである。羽生選手も好演していたと思う。肌が白く,端正な容姿は,いかにも殿様という感じがした。だが,江戸時代の殿様が,敷居や畳の縁を踏んで歩くのはどうかと思った。誰も注意してやらなかったのだろうか?原作者のカメオ出演などよりそうしたことに気を遣って欲しかった。

集客目的で予告編を面白そうに作るのは映画会社の作戦なのであろうが,本作の場合はほとんどネタバレに近かったということには呆れてしまった。観客の年齢層が高く,老女ばかりの観客が見たがっていたのが予告や TV CM で何度も見せられた羽生選手演じる殿様だったことは,あのシーンで場内のババァどもの騒ぎが一段と大きくなったのを見れば明白である。まんまと乗せられたババァどもと同じ時間に見てしまったのがつくづく迂闊であった。
(映像4+脚本4+役者4+音楽3+演出4)×4= 76 点。

アラカン