「おかしなおかしな訪問者」ヴィジット 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
おかしなおかしな訪問者
2008年の『ハプニング』以来ドンデン返し演出を封印したものの、
未だにシャマラン監督=ドンデン返しのイメージは根強い訳でして、
おまけに今回は衝撃展開を(無駄に)匂わせまくる宣伝だった事もありまして、
なのでこっちとしても色々と衝撃展開を予想してた訳でして、
何が言いたいかと言うと、本作のドンデン返しは予想のひとつとして
頭に浮かんでいたので、そこまで驚かなかったと言いたい訳でして。
初っぱなから盛り下がる事をわざわざ書いたのは、この作品が気に入らなかったからではない。
「それを踏まえても十二分に面白かった」と続ける為だ。
とりあえず本作は、かなり怖い。
少なくともシャマラン作品の中では最も恐怖度が高いと思う。
モキュメンタリーもしくはファウンドフッテージもののスタイルを取った事で
いきなり何が飛び出してくるか分からない緊張感には息苦しくなるし、
コケオドシに頼らず全体を通してじわじわ恐怖のボルテージを上げていく演出も巧い。
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何が怖いか? そりゃもちろん、あの不気味な祖父母だ。
特にあのマックスにマッドなお祖母ちゃんの方は心底恐ろしい!
最初こそ優しくステキなお祖母ちゃんに見えるが、
突然高慢な女優のようになったり、自分を殴り出したり、夜中はリンダ・ブレアになったり、
何を考えてるのか、いつ危害を加えてくるのかがさっぱり読めない恐ろしさ。
床下のシーンなんて「え?え?え?何何何何!?」って感じ(笑)。まだ序盤だったので完全に油断してました。
密室でのクライマックスなんて、マトモに目を開けられないほど怖ぇ!
お祖父ちゃんも色々と不気味なのだが、彼は怖いと同時にどことなくユーモラス。
どちらかと言えばお祖母ちゃんが妙な疑いを持たれないよう気を配る役回りなのでまだマシだ。
……まあ道行く人に殴りかかったりシンモフィラリア星人侵略に怯えたりする様子をマシと呼べればだけど。
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で、ヒネリが利いているのは、
彼らの異常行動が、危険人物だからか単にモーロクしてるからかがギリギリまで読み切れない点。
「歳を取ると色々と昔通りにはいかんのじゃよ……」「駄目な祖父母でガッカリさせてしまったのう……」みたいなことを
自分の祖父母から言われたら、やっぱ自分の考え過ぎかな、と納得するよう努めてしまうと思う。
で、いくら何でもおかし過ぎる!と気付く頃には時すでに遅しという、この絶妙な恐怖勾配。
また、先述通り『祖父母と思っていたのが別人でしかも異常者』という展開も予想の範疇ではあったが、
祖父母との接触を母がなるべく避ける様子をユーモア交じりに描いていたり、
母が駆落ち同然で生家を出たので両親の写真は無かったのだろうと解釈できたり、
訪問してくる知り合いで信用度を上げたり(あの異常者2人はどちらも立ち会っていない訳だが)、
話題の避け方はかなり自然に描かれてる。
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もうひとつ。
僕の意見だが、モキュメンタリースタイルのホラー映画は、
主人公がカメラを回し続ける理由が薄弱でリアリティに欠ける作品が割と多い。
だが本作では、ここにもシャマランらしいひとヒネリが光る。
映像を撮っているのは長女ベッカ。
『優れた映像作品を作りたい』と語ってはいるが、彼女がドキュメンタリーを作る最大の目的は他にある。
祖父母と喧嘩別れして以来、苦労し通しの母親に、
本当は会いたいと願っているはずの祖父母の近況を伝える。
さらには両親からの“赦し”という『万能薬』をも届ける。
娘の作った映像作品なら、母も意固地にならず観てくれるはずだ。
そして最後には、母が抱える悲しみを多少なりとも和らげられるはずだ。
彼女はきっとそう考えていたに違いない。だが、
観賞後の方ならご承知の通り、その目論見は失敗に終わった。
母の両親は、異常者によってとっくに殺された後だったのだ。
だが、ベッカの母は悟る。
そして、自分に向けてカメラを回す娘に語る。
「赦しはずっと目の前にあったの」
二度と叶わなくなった父母との再会。それに対する彼女の悲しみは如何ほどのものだったか。そして、
彼女の悲しみを理解し、癒したいと願う子どもらがいてくれる事が、彼女にとってどれほどの救いだったか。
彼女にとって、自分を愛してくれる子ども達がいることそれ自体が、
過去の自分を赦すに足るだけの十分な理由だったのだ。
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僕がこの映画を好きな一番の理由は、この優しさだ。
シャマラン監督の映画においてはいつも、恐怖が人の心の結び付きを浮き彫りにする。
過去にがんじがらめにされていたあの家族は、恐怖を乗り越える事でようやく前へ進むことが出来たのだろう。
……とまあ、僕はシャマラン監督作品と相性が良いのでちょいと点は甘いかもだが、大満足の4.0判定!
恐怖演出もストーリーテリングも好みだし、書ききれなかったがユーモアもたっぷり。
恐ろしい物語のあらすじを、弟くんのラップでチャラくまとめてしまったエンドロールも見事でした(笑)。
<2015.10.17鑑賞>