「"宇宙でも、あなたの悲鳴は誰かに聞こえる"。 人間讃歌に満ち溢れる、最高にポジティブな一作✨」オデッセイ たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
"宇宙でも、あなたの悲鳴は誰かに聞こえる"。 人間讃歌に満ち溢れる、最高にポジティブな一作✨
たった1人で火星に取り残されてしまった宇宙飛行士のマークが、生き延びて地球へと帰還する為に奮闘する本格派SF映画。
監督/製作は『エイリアン』シリーズや『ブレードランナー』の、レジェンド映画監督サー・リドリー・スコット。
主人公マーク・ワトニーを演じるのは『オーシャンズ』シリーズや『インターステラー』の、オスカー脚本家でもある名優マット・デイモン。
マークの乗る宇宙船の船長、メリッサ・ルイスを演じるのは『ヘルプ』『インターステラー』の、名優ジェシカ・チャステイン。
クルーの1人である医師、クリス・ベックを演じるのは『ブラック・スワン』『キャプテン・アメリカ』シリーズのセバスチャン・スタン。
操縦士を務めるクルーの1人、リック・マルティネスを演じるのは『ミリオンダラー・ベイビー』『アントマン』のマイケル・ペーニャ。
第73回 ゴールデン・グローブ賞のミュージカル・コメディ部門において、作品賞と主演男優賞の2冠を達成❗️
まずタイトルから。
原題は『The Martian(火星人)』。しかし邦題は『オデッセイ(「長い放浪の旅」の意。語源は「オデュッセイア」という叙事詩で、英雄オデュッセウスの10年間の漂白が語られている。)』。
おそらくSF映画の古典的名作『2001年宇宙の旅』の原題が『2001: A Space Odyssey』であることから、『オデッセイ』というタイトルになったのだろう。
この邦題を決めた人間は「気が利いているダルぉ〜😏」とか思ったのかも知れないが、原題を日本語ではなく別の英語に置き換えちゃうパターンって個人的に大嫌い。オリジナルへのリスペクトが感じられないから。
ちなみにハヤカワSF文庫から出されている原作小説の邦題は「火星の人」。こちらは完璧な和訳だと思う。これで良いやんけ。
今や巨匠リドリー・スコットの代表作になった、興行的にも評価的にも大成功を収めた映画。70歳を超えて新しい代表作を作り上げたリドリー・スコット恐るべし。
十字架を燃やして炎を得るという描写が端的に表しているように、本作は神に頼ることなく、知恵と勇気とユーモアで困難に立ち向かう人間の姿の美しさと雄々しさを描いている。
これぞまさに人間讃歌✨"人間讃歌は「勇気」の讃歌!!人間のすばらしさは勇気のすばらしさ!!"と言うツェペリさんの名台詞を思い出す。
無神論者であるリドリー・スコットが好きそうな題材ですよねぇ。
マット・デイモン&ジェシカ・チャステインというキャスト、かつ宇宙をテーマにしたものということでどうしても『インターステラー』と比較してしまいたくなるが、この2作は本当に対称的な作品だった。
『インターステラー』の方はサスペンス要素が強く、家族の愛を前面に押し出した作品で、一見真面目な雰囲気なんだけど実は荒唐無稽な映画だった。まさにザ・エンタメ作品といった感じ。
それに対して本作は、一つ一つ問題点を明示し、それを一歩一歩解決していくという割と地味な作品。
主人公のマークには妻や子供、恋人がおらず、両親についても言及されるだけで登場はしない。家族愛という要素を極限まで削ぎ取っている。
そして、作風は非常にコミカル。マークのジョーク&毒舌のおかげで作品はカラッと明るい陽気さに満ちている。だが物語に奇跡や超常現象は一切出てこないという真面目さと堅実さを持っている。
同じような公開年で同じ役者、同じ宇宙ものであるにも拘らずここまで対称的だというのは興味深い。両方とも鑑賞し、色々と比較してみると面白いかも〜。
前述したように、本作にラヴストーリー的な要素は一切ない!
普通の映画ならマークに愛する家族がいて、地球で彼の身を案じる妻とか子供が描写されるだろう。
んで、マークは家族の写真をじっと見つめて勇気を奮い立たせたりするんだろう。
もしくは船長のメリッサと恋愛に発展したりすると思う。
しかし、本作において重要なことは火星の環境の過酷さと、それに打ち勝つための努力を描くことである。
そして何より大事なのは、寄るべきものがない状態で1人ぽっちの孤独に耐え、希望を失わずに歩み続ける人間の崇高さを描くことにある。
これらをテーマにした作品に、家族愛や恋愛はむしろ不純物。この混じりっけなしの純粋さこそが、本作の強度を高めているのだろう。
洋画・邦画問わず、とりあえず恋愛&家族要素をぶち込むという風潮があるが、それを嘲笑うかのような物語の構成にはグッとくる👍
マークが自分の腹部に刺さったアンテナを取り除くシーンとか、栄養失調でボロボロの肉体になる描写とか、ハードな表現を躊躇なく映し出しているのはリドリー・スコットらしい。オペのシーンなんか本当に痛々しかった。あのシーンのマット・デイモンの呼吸法が超リアル。
こういう描写に手を抜いていないからこそ、逆にマークの明るさが活きてきますよね。
最高にポジティブで、鑑賞後に勇気が湧いてくる映画。
ただ一点気になったことといえば、唐突な中国描写。
「太陽神」というチートエンジンをポンと提供してくれるというのはちょっとご都合主義的に感じましたね。
本来ならもっと政治的なやりとりなんかを描くべきなんだろうけど、本作を徹頭徹尾ポジティブな作品とする為にそういった黒いことは描写しなかったのだろう。
何にせよ、ちょっと中国市場を意識し過ぎな感じはどうしてもあったかな。
とにかく、ここまで前向きで知的な人間讃歌の映画ってなかなか無いと思う。コロナ禍のタイミングだからこそ観たい一作といえるかも。
困難に立ち向かう勇気をくれる、最高にホットな映画✨
余談だけど、マット・デイモン、セバスチャン・スタン、マイケル・ペーニャ、キウェテル・イジョフォー、ドナルド・グローバー、ベネディクト・ウォンなど、本作には「MCU」に馴染み深い人がたくさん出てくる。
『アイアンマン』に言及したり、DVDの特典映像ではDCの『アクアマン』についての考察を述べていたりと、マークはかなりのコミックオタク。
もちろん関係は全く無いと思うんだけど、なんとなく気になるキャスティングでした笑。
家族愛の排除の指摘、そうそうその通り!と思いました。素晴らしいレビューですね。十字架を燃やして炎を得るという描写、自分は全く気がついてませんでした。有難うございます、勉強になりました。
『火星の人』なら作中でワトニーがジャガイモを作りながら口にした植民地に関する法律の話とも絡みますしね。
『オデッセイ』が悪いとまでは言いませんが、原作好きだからなんか一言言いたくなってしまいます。
どうでもいい話になりますが、高河ゆんという作家の『アーシアン(地球人)』ってマンガあったなあ。
> 十字架を燃やして炎を得るという描写が端的に表しているように、本作は神に頼ることなく、知恵と勇気とユーモアで困難に立ち向かう人間の姿の美しさと雄々しさを描いている
おお、そのシーンが記憶に残っていない自分を深く恥じるなあ。もう一回、ちゃんと観なきゃ、と思わせてくれる、ナイスレビューです!!!