「絶望に打ちひしがれたときに見たい映画の一本」オデッセイ とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
絶望に打ちひしがれたときに見たい映画の一本
音を消して観たら、役者の演技が堪能できた。
ワトニーの絶望と孤独。一瞬の、台詞のない表情だけで、背中だけで、佇まいだけで堪能させてくれる。それを振り払うように出てくるジョーク。かえってその孤独・絶望・不安を際立たせる。
アカデミー賞ノミネートも納得の演技。
そんな壊れてもおかしくない心理状態に陥ることもあっても、常に前向き、冷静な状況判断・対応。冷静な状況判断をするということは最悪の結果も予測すると言うこと。でも、対応策を取れれば、回避できるかもしれない。不安に縮こまっているよりもとにかくやる。
宇宙飛行士は独立独歩、自立。自分のことは自分でやる。そのうえでの協調。共依存ではない。全てが自己責任。
ワトニーの精神の強さが際立ってくる。
デイモン氏の元々持つ末っ子のような可愛がりたくなるキャラも影響して、ワトニーが身近に思え、応援したくなってくる。
そんな白眉の演技。
だけど、それを味わう余韻が無い。
あれよあれよと物語が進む。
物語は、一難去ってまた一難。次から次に襲いかかる出来事にハラハラドキドキ。
爆弾を手にするドキドキ。
宇宙空間を浮遊するドキドキ。『2001年宇宙の旅』を思い出すと、いつ宇宙船から宇宙空間に放り出されてしまうんだろうとハラハラ。
そして極め付けがプルトニウムの扱い。あんなところに置いて、被曝しないのかとハラハラドキドキ。映画の中でも「近づくな、土に埋めて、どこに埋めたかしるしを立てよ」と言っているくらいなのに。アメリカ人の、核への感覚ってあの程度のものなんだろうなと再認識。
そして私にとって最大の難点が音楽の選択。
他の方のレビューで曲の選択には意味があるんだと知ったけど、例えそれが解って聞けたとしても、私の趣味には合わなかった。ディスコミュージックとしては好きな曲ばかりだったのだけど…。
出演者はワールドワイド。イスラム系、ピスパニック系、インド系と思われる方とかなり網羅している。そして最大の善人となるのは中国。うん、そうだよね、今なら。
(とは言え、宇宙船建造の長の方はナイスだったけど、助け舟出す方々の役者はもう少し演技ができる方はいなかったのか。あの演技のあの場だけ、1980年代に戻っちゃったかと思ったよ)
その中で特筆すべきはジェシカさん。超クール。『ヘルプ』『欲望のバージニア』を見た後だったので、その振り幅に驚嘆。
悲壮感たっぷりにではなく、登場人物それぞれの心情をきちっと抑えつつも、人としての力の大きさを、軽快にポジティブに描いた映画。
音楽は私には合わなかったが、この音楽だからこそハマるという人もたくさんいる。
『コメディ/ミュージカル部門』での受賞。作品を見れば納得なのだけれど、デイモン氏達は、この作品がコメディ/ミュージカルだと認識してこの映画を撮ったのかなあ?せっかくの演技に水かけられた気に勝手になってしまっている…。
なので、☆1つ減らします。
絶望な状況に陥った時、とりあえず何ができるか状況分析して、やれることをやるという精神は見習いたいです。