「人間の精神力の源とは」オデッセイ REXさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の精神力の源とは
去年の傑作【インターステラー】に出ていたマット・デイモンと、ジェシカ・チャスティンが今作品でも出演。
最近はSFの良作が多く嬉しい。
マーク・ワトニーは火星に一人取り残されるが、持ち前の明るさと、目の前のことに一つずつ取り組む冷静さで絶体絶命の状況を生き延びる。
火星の荒野を眺めるワトニー。
こちらも自然と「孤独と自由」について思いをはせる。
孤独な状況下では、他者がいれば容易に実感できる自己という存在を、「考える自己」を自分自身で拠り所にしなければならない。「我思う、故に我あり」という格言が頭をよぎる。
だからこそ、クルーに自分の生存が伝えられていないことを知ったワトニーは、その決断を下したNASAに怒りをぶつける。
助けに来て欲しいことよりもまず先に、生きて存在していることを知って欲しい、そのことで喜んでくれる人がいる、それを思うだけで自分も力を得られる・・・。
つくづく、人間は不思議な生き物だなと思う。
ワトニーが一人火星で禅問答を繰り広げている間、地球では命とカネを天秤にかけて様々な駆け引きが行われている。
火星にも見えざる手が干渉し始め、領有権だのなんだのとワトニーを制限し始める。
ヒトは社会的な生き物で、社会から切り離されると生きていけないのだが、それが少し窮屈で時にまどろっこしい。
かといって所属している世界を手放す勇気は、ほとんどの人にはないだろう。
だからこそ、ヒト社会のしがらみを超えて純粋でまっすぐな思いを貫く宇宙飛行士たちの勇気ある行動に胸を打たれるし、死を直面にしても「犠牲になるのは俺だけで十分」と堂々と言えるワトニーが堪らなく羨ましい。
ラスト、足下に芽吹く物言わぬ同志に「ハイ、ディア」と囁くワトニー。何にも自由を侵されることなく本能のままに芽吹く植物を、もしかしたら彼は少し羨ましくも思ったのかもしれない。
ワトニーの、知恵と折れない精神力で生き抜いた人しか持てない大らかさと清清しい表情に、こちらもすっきりと爽やかな気持ちになった。久々に人間の善き部分にスポットをあてた映画。