「宇宙規模の人間讃歌。」オデッセイ さんばさんの映画レビュー(感想・評価)
宇宙規模の人間讃歌。
宇宙ものの映画といえば、ここ数年だと2013年の『ゼロ・グラビティ』、2014年の『インターステラー』が思い出されます。
『ゼロ・グラビティ』は宇宙の恐怖を、『インターステラー』は宇宙の神秘を、それぞれ描いていたように覚えていて、どちらも名作だと思うのだけど、本作『オデッセイ』はそのどちらとも違って、宇宙を過大評価も過小評価もせず、ただ目の前にある事実として描いていて。
事実のかたまりである宇宙にたいして、人間の智恵と科学と意志とユーモアで正面から向き合い、取っ組み合いながら乗り越えてゆこうとする主人公の力強い姿を通して、宇宙をミステリーでもアンコントローラブルなものでもなく、解読可能な事象のひとつとして飲み込んでやるのだという、全人類を代弁するかのような制作陣の気合がひしひしと感じられたように思います。
火星探索のミッション中に砂嵐に吹き飛ばされ、脱出に間に合わずひとり火星に取り残された宇宙飛行士マーク・ワトニー。
「もうだめだ」
次の探索機が火星に来るのは4年後。
水も食料も心もとなく、ちょっとした火星のきまぐれでいとも簡単に吹き飛ぶ命。
クルーにも、NASAにも、すべてに見放されたような絶望的な状況にあって、諦めるか。それとも、生きようとするのか−。
本作の”宇宙"は、ひとたび劇場の外に出るとその人の前に立ちふさがる”現実”、あるいは”困難”とも置き換えることができます。
困難な現実を前に、孤独や無力さを感じること、ひざをついてしまうこと、あるかもしれない。
そんなとき、どうやって立ち上がり、向き合い、乗り越えてゆくのか。
マット・デイモン扮する宇宙飛行士マーク・ワトニーは、教えてくれます。
大きすぎる問題のかたまりにひざを折るのではなく、ひとつひとつ、小さな問題として捉え直し、ひとつひとつ、智恵を振り絞って向かい合う。
解決したら、次のひとつに移る。
悲観的になりがちな作業の中に自分だけの楽しみを見つける。
疲れたら、陽気な音楽でも聴きながらリフレッシュする。
ユーモアを忘れない。
そうやってひとつひとつを解決してゆくうちに、状況が好転する瞬間がやってくる。
見つけてくれる人が現れる。
助けてくれる人が現れる。
そうしていつか、困難を乗り越えられる瞬間が来る。
きっと本作は、宇宙をモチーフにした”人間賛歌"がテーマなんだろうな。
見ごたえたっぷりの一作です。ぜひぜひ。