真珠のボタンのレビュー・感想・評価
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☆☆☆★★★ 水に纏わる美しくも儚くそして悲劇的な聖なる魂の詩 2...
☆☆☆★★★
水に纏わる美しくも儚くそして悲劇的な聖なる魂の詩
2015年11月15日 岩波ホール
2021年11月1日 岩波ホール
【”人間の思考の原点は水”チリの先住民、パタゴニアの民でもある水のノマドと言われた人々の、悲劇的な歴史を抑制したトーンで描くドキュメンタリー作品。】
ー 太平洋を臨む全長4300kmに及ぶ国土を持つ、南米の国・チリ。
その西パタゴニアの海底でボタンが発見された。
海の底から且つて、ピノチェト政権によって政治犯として殺された人々や、祖国を奪われた先住民が、レールを身体に括りつけられ、海に投棄されていた。
そして、その寂びた鉄のレールに付着したボタンが見つかったのだ。
それだけのことからチリがどのような歴史を重ねてきたかが分かっていく。
その展開と内容に知的興奮と、それ以上の悲しみと戦慄を覚える。ー
◆感想
・ピノチェト政権の蛮行は、チリに何の恩恵も齎していない。
・先住民族を虐殺した白人の血が、ピノチェトにも流れている。故に、あのような残虐な行為が出来たのだ。
・先住民族は、海、水を大切にし、海と共に暮らして来た事が語られる。
・だが、後にやって来た人々は縦に長いチリの進むべき道を間違えたのだ。
<”人間の思考の原点は水”ジェミー・ボタンという人物の数奇な人生と共に、今作は海底で発見されたボタンの背景にある歴史などを追いつつ、ピノチェト政権によって政治犯として殺された人々や、祖国を奪われた先住民の姿をつまびらかにしていく。
現在、チリは経済面で停滞状況にある。その理由はこの映画を見れば、良く分かるのである。>
心中複雑
タイトルの美しい響きに騙されてはいけません。
本作はチリの不幸な歴史、迫害を受けた人々への壮大なレクイエムです。
チリの悲劇は一例に過ぎないでしょう、人類の侵略と殺戮の歴史は観る人を奈落の底へ引きずり込むでしょう。
製作の崇高な動機や映像表現には敬意を払いますが映画で期せずして学ぶことになった観客が味わう苦さを思うと心中複雑です。
水の記憶
風景や人を模様のように描こうとしたのは印象派からだったか─。
セザンヌやモネ、ゴッホなどの絵を見ると、必死にそのものが持つ意味をぬぐい去ろうとしているように見える。
またアンセル・アダムスやスティーグリッツの写真なども、事物を模様のように捉える姿勢を、時として、感じる。
個人的にはそんな事物を見事な模様として提示されると、言いしれぬ快感に襲われるのだが、この映画もその範疇に含まれるものであった。
ただ、グスマン監督が偉大な芸術家と大きく違っている点が一つある。それは、模様のように捉えているそれら事物に、独自に意味を・意図する物事を、積極的に与えようとしているところだ。
絵画・スチールを超えた映画芸術をグスマン監督は創り上げつつある。
チリの悠久の歴史を中心に据えながら、全宇宙的な哲学を語り尽くしている、偉大なる映画である。
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