劇場公開日 2016年4月29日

「団体に重きを置きすぎた失敗作」ちはやふる 下の句 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5団体に重きを置きすぎた失敗作

2016年5月14日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

かるた競技には和の淑やかさがありながらも、それにそぐわない斬新な部分もある。そんな魅力を最大限に引き出しながら、友情から繋がる団体行動の大切さも密に描いていたのが「上の句」であった。
だが「かるた競技」の魅力をなんとなく理解してきた「下の句」では当然「上の句」のような衝撃は半分以下になるわけで、ほかに何があるのかと思えば甚だ疑問が残る。結果から言えば「下の句」では何もできずに「上の句」からの延長線上を興業目的で果たした、言わば最近指摘されている邦画が世界に進出できない要因の一つを露呈する形になった。
「下の句」で焦点になる部分は松岡茉優演じるかるた界のクイーンこと若宮詩暢が登場することで、主役の3人である千早、太一、新のかるたに対する考えが変わっていくこと。そして、全国大会に向けたかるた部の一体感の成長も見どころの一つ。
気づくかもしれないが今回は若宮詩暢が登場すること以外は「上の句」でやっていることと何ら変わりはない。そして、まだ演技の発展途上でもある彼らにこのドラマパートで同じことをやらせても突出したものが出てこないのは当たり前のこと。清水尋也や松岡茉優(クイーンと言われていながら登場シーンは少ない)といった若くてもある程度演技に定評のある役者を少しでも登場させたのが唯一の救いといっていいかもしれない。
そして、「上の句」よりも圧倒的に無駄なシーンが多いのも気になるところ。笑いをとるシーンの中途半端な描写や恋なのか友情なのかどっちつかずな演出をくさい芝居で片づけたりと「上の句」に比べ一気にクールダウンさせられる。極めつけは吹奏楽がかるた部にお礼を言いにくるシーン。平凡な高校生の集まりである吹奏楽と容姿整ったかるた部が対面したのを見た瞬間、一気に現実へと引き戻されて気分になり、ありえない設定とはわかっていながらもこのシーンがあるだけで興醒めしてしまった。
これで続編の製作とは・・・。ある意味で日本の映画スタッフはハートが強いのかもしれない。世界から何を言われても興収だけを求めた映画作りにぶれを感じさせないからである。

森泉涼一