ちはやふる 下の句 : インタビュー
広瀬すずが松岡茉優に出会った――永遠のライバルになることを予感させる“直接対決”
末次由紀氏の人気少女漫画を2部作で映画化した後編「ちはやふる 下の句」は、主人公の綾瀬千早を演じた広瀬すず、最強のライバル・若宮詩暢に扮した松岡茉優の一騎打ちが見どころのひとつといえる。役を生きた本人たちが「すごい楽しかった!」と目を輝かせ、撮影現場がいかに充実していたかに思いをはせる。“どストレートの青春”と形容するほかない対決シーンに込められた思いを含め、広瀬と松岡が隠すことなく胸中を語った。(取材・文/編集部、写真/江藤海彦)
松岡本人が公言している通り、前編「ちはやふる 上の句」では出番がほとんどなかった。クライマックスで効果的な露出をしているが、松岡ファンは肩透かしを食らったに違いない。今作では、その鬱憤を晴らすべく松岡が躍動し、広瀬も負けじと躍動する。
広瀬にとって、松岡は実姉・広瀬アリスと同い年の憧れの女優。「茉優ちゃんは、本当に大好きな女優さん。今回、千早と詩暢ちゃんっていう関係性でお仕事を一緒にさせて頂けて嬉しかったです。現場でも、一瞬にして詩暢になる瞬間、ニヤリと笑うところとか、『どこに神経がいっているんだろう?』と気になるくらい、刺激的なことが多かったです」。
一方の松岡もまた、実妹が広瀬と同い年、さらに広瀬の姉アリスと共演経験があるだけに他人事ではなかったという。「姉のアリスから『妹もやり始めたんだ』と聞いてはいたんですよ。そうしたら、飛ぶ鳥を落とす勢いとはこのこと。私は下積みとまではいかないにせよ、練習を重ねた時間があった分、そのときの“貯金”で演じていることが大きい。すずはそういった時間がないまま、今たくさんのお仕事に恵まれている。嬉しいことはもちろんだけど、つらいこともたくさんあるだろうなあって。もっと勉強したいだろうし、もっと知りたいこともあるだろうし。ただ、目の前の仕事がそれを許してくれない。『どんな子なんだろう』と思って会ってみたら、良い意味ですごく自由な人でした。すごく伸び伸びとしていて、天性なんだなと感じました。お姉ちゃんがやっていたから、ここにいるんじゃない。この子はこの業界に呼ばれてここにいるんだなと強く感じました」。
映画は、「上の句」が千早、太一(野村周平)、新(真剣佑)の絆の強さ、千早が太一とともに創部へこぎ着けた瑞沢高校競技かるた部の成長を描いているが、「下の句」では個々のキャラクターのパーソナルな部分を掘り下げている。
全国大会出場を決め、懸命に練習に励む瑞沢高校の競技かるた部にあって、同級生ながら“最強のクイーン”と呼ばれる若宮詩暢の存在を知った千早の心は波打ち、大きく乱れていく。「かるたは、もうやらん」と口にした新に「強くなったな」と言われたい、詩暢に勝てばもう一度、新とかるたを取れるかもしれない。「クイーンに勝ちたい!」「新に会いたい!」。千早の気持ちは次第に詩暢にとらわれ、かるた部の仲間たちからは離れていってしまう。
本編を見ていると、2人の対決は、さながら「機動戦士ガンダム」のアムロ・レイVSシャア・アズナブルの様相を呈している。だが、「上の句」の撮影にほとんど参加していない松岡は当初、想定していた以上に苦戦を強いられたようだ。
「すずと1度だけ一緒に練習をやったんだけど、すずは『上の句』を撮り終わるところ。私はこれからインするところで、取ってきた数の差が出ちゃったんです、私の中で。ずっとひとりで練習をしてきたから、(かるたを)早く取るという意識はあっても、誰かと向かい合ったとき、自分から取りに行かなきゃ逆に取られるっていう気持ちがなかったんですよ」
そのため、「『下の句』のクランクイン直前、詩暢ちゃん役が出来上がっていくなかで、千早にかるたを取られるというのがすごく屈辱的だった」という。そして「私が取られる分にはいいんだけど、クイーンの詩暢ちゃんが取られているというのがすごく気持ち悪くて……。私がうまくなるまで、この子と練習したくないって思いましたね」と振り返る。
隣席で聞き入っていた広瀬も役と同化していったことを認め、「本番ではもちろん、かるたを取られるカットがあるんです。でも、シーンだと分かっていても取られるのって、本当に悔しくて。練習ではもちろん、本番で取られるカットでも、テストでは絶対に取る! と思っていました(笑)」と負けず嫌いな一面をのぞかせる。
さらに2人は、はかま姿について「めちゃめちゃ動きづらいんですよ!」と口をそろえ、ほほ笑み合う。そして、「千早と一緒にやってから、めちゃめちゃ練習しましたよ。『これじゃあ、詩暢ちゃんに申し訳ない』と思ったんですよ」と明かす松岡の表情は、どこまでも清々しい。
今作での共演シーンは今後、映画はもちろんドラマ、舞台などさまざまな局面で2人が対峙していくことを暗示しているようにも感じる。“永遠のライバル”になりうる存在に対して、互いの印象を聞いてみた。
松岡「悩みもあるんでしょうが、それを現場に持って来ない人だなと思いました。声も素敵だし、姿勢もいい。それに、仕事に対してすごく前向きな人。このお仕事を若いときからしていると後ろ向きに考えてしまいがちだし、減点減点で考えてしまう。すずは、それでも加点で考えようとしている人だから心強い。同世代って呼んでいいよね? 同世代として、こういう人がいるっていうのはすごくありがたいです」
広瀬「今だけじゃなくて、これからも茉優ちゃんの作品を見て『すごい!』と思う瞬間はたくさんあるだろうし、また違う形でもお仕事したい! 追いつきたい! と思える存在です。『下の句』を見て、詩暢ちゃんの美しさといい、不気味な笑みといい、悔しいけど『詩暢ちゃんが茉優ちゃんで良かった!』って思ったら、興奮状態で『茉優ちゃん!』ってメールしちゃったんです。こういうパワーやエネルギーを生で感じる機会ってなかなかないことだと思うので、もっと自分もレベルアップしなくちゃと改めて考えさせられました」
今作の封切り後も、2人の出演作品は続々と公開、放送されていく。広瀬は主演作「四月は君の嘘」(新城毅彦監督)や吉田修一原作を映画化する「怒り」(李相日監督)、松岡はNHK大河ドラマ「真田丸」、同局の主演ドラマ「水族館ガール」が控える。だが、演じる楽しさに魅せられた2人の姿勢は、どこまでも貪欲であり、謙虚だ。
松岡「今回もそうだったのですが、制服を着られるお仕事って、あと5年くらいじゃないかと。5年も着るの? って笑わないでくださいね。あと、新人ドクター、新人刑事、新人教師とか……。年齢的なタイムリミットのある学生役、新人役は積極的にやっていきたいんです。『ちはやふる』は若いみんながメインですが、國村隼さん、松田美由紀さんという尊敬する先輩とお話しする機会をいただきました。國村さんは1時間以上、いろいろ聞かせてくださって、教えてくださいました。私が今後どう仕事と向き合っていくか、現場で私がどういう風に見えているのかを先輩の目線で初めて聞くことができたんです。21歳って、ようやく大人の1年生なのかなって思っているので、俳優という職業を、ちゃんと職業にしていくということが当面の目標ですね」
広瀬「映画でいろいろやらせていただいたものが今年公開していくのですが、まだ確信が持てていませんし、自信もほぼありませんし、本当にフワフワしていることが多いんです。反省ばかりなんですが、そのなかでも私なりに、出来るだけのことをして頑張ったものを、お客様に見ていただける機会が増えるのは嬉しいです」