「押井守の『インヒアレント・ヴァイス』そして『悪の法則』」THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦 ディレクターズカット 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
押井守の『インヒアレント・ヴァイス』そして『悪の法則』
セリフ廻しが、アニメのアテレコみたい。
構図もアニメっぽい。
筧さん、只でさえ「後藤」に似ているのに、キャラに寄せて演じている。
そして何より渡辺哲さんの「びっくりだなあ」の表情が完全にアニメキャラ風。押井アニメというよりは、シルヴァン・ショメのアニメに出てきそうな顔。ショメも実写やってるから、今度ぜひ出演して欲しい。
どこまでいってもアニメっぽくて、「何で実写化?」を通り越し「実写って何?アニメって何?」とすら思う。
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実写ならではの面白さもあった。
今回の主要人物、灰原レイ。名前もレイ=霊だし、乗ってるヘリの名前もゴーストで、実は存在しない人=幽霊という設定だった。
実写で生身の肉体を持った女優さんが演じているということで、その「存在しない」設定に、非常に違和感がある。
最後、ザブザブ泳いでいく所なんて、良い意味で野暮ったくて人間っぽい。とても幽霊とは思えない。
これがアニメーションだったら、もうちょい幽霊っぽく作れて、「このキャラ、幽霊です」と言われてもそんなに違和感ないんじゃないかなあ。ああ、そうですかって感じで。
実写ならではの、この「違和感」が本作の面白い所なんじゃないかなあと個人的には思う。
居ない者を居ると思い込んだり、居る者を居ないとごまかしたり。その矛盾、その違和感が、押井監督の言うところの「不正義の平和」に繋がっていく訳でしょう。実写ならではの話だったのではないかとも思う。
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本作に対し、「劇場版パト2に激似、焼直し」という声が多数だったが。
幽霊が敵という点では、むしろ「劇場版パト1」の方に、似てたんじゃないかなあ。
でも「パト1」の敵は、死んだ人でもそれなりにちゃんと「理念」があった。攻撃をしかける「言い訳」があった。
今回の「灰原レイ」には、理念がない。理由がない。意味がない。「理念なき悪意」があるのみだ。
だから、公安が「灰原レイ」のバックグラウンドを調べても不毛だし、意味を探っても誰にも解らない。
敵陣営も、灰原レイの「理念なき悪意」を利用しようとするが、結局、御しきれない。
「理念なき悪意」。
パト2の頃は、有り余る「理念」と闘っていたような気がするんだが。
現在は「最早、そんなもんありませんよ」という時代の変遷。時代の開き直り。
時代の変遷ってことでは、本作、押井守の『インヒアレント・ヴァイス』だったなあと思う。
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監督ご本人は、「灰原レイは『悪の法則』のキャメロン・ディアス」とおっしゃっていた。
確かにどちらも「悪意」のかたまりで、理解もコントロールも出来ない。
(5月公開の本作通常版を観たときは、「はあ?どのあたりが『悪の法則』?」と感じたのだが、今回のディレクターズカット版で、少しは腑に落ちた。DC版の方がそういう意味では分かり易い。何で最初っからこっちを公開しなかったのかあ。上映時間短い方が、劇場での回転数が稼げるからかなあ。)