「劇映画よりドラマチック」氷の花火 山口小夜子 デブリさんの映画レビュー(感想・評価)
劇映画よりドラマチック
小夜子さんの目は本当は大きく円かったこと(つまりあのトレードマークの切れ長の瞳は徹底した自己演出によるものだということ)、上背がないのにランウェイでは大きく見えたこと、他のモデルたちがタバコを吸って酒を飲んでいるパリコレの楽屋で静かに本を読みながら出番を待っていたこと、透ける衣装を他のモデルが嫌がっても小夜子さんは何とも言わなかったこと、かっこいい伝説をこれでもかと浴びられた。また、伝説を語る人々の顔がうれしそうでうれしくなる。
一人称をときどき「小夜子さん」にしたという話や、宇崎竜童が好きだった話、おでこにコンプレックスがあった話、意外と「あの人とあの人付き合ってるんだって、そうだと思った」とか「あの人(男性)やっぱり男の人が好きな人だって聞いたよ」とか、そういう話題が好きだった話、知らない一面も見えてきて面白い。
資生堂の広告宣伝物に復帰したとき「山口小夜子さんはこの頃、美しさを楽しもうとしています。」というようなコピー(うろ覚え)がつけられた。でも彼女自身は「美しいことは苦しいこと」と語っていた。周りが着せるものと自ら着るものと、着ないままの自分と、相克を内に抱えながら歩んだ人生だったのかもしれない。
高校時代にセブンティーンから写真を切り抜いて作っていたスクラップブックが遺品から出てきたとき、なぜか胸を衝かれる思いになった。けなげに生きた人だったんだと思った。
観終えてもやっぱり、山口小夜子さんって本当はどういう人だったんだろう、という疑問は消えないけど、そういうクエスチョンをみんなの中に永遠に残していくところまでが彼女の個性だという気もする。
パンフレットは、資生堂でアートディレクターをされていた大城喜美子さんという方の寄稿に描かれた、セルジュ・ルタンスとの仕事風景が特に素敵。