劇場公開日 2016年11月12日

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「すずさんが生きた時代を一緒に生きた感覚。」この世界の片隅に とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0すずさんが生きた時代を一緒に生きた感覚。

2018年7月11日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

泣ける

怖い

萌える

永久保存版の傑作だと思う。
 この広い世界と、これから先の時代へ、この映画を届けたい。
 戦争映画なんてくくりではなく、これからの世界を考えるためにも、ぜひ、観て、語りあいたい。

 のんびりしたテンポ。
 童話チックな画風。
 遠い過去に生きた”誰か”ではなく、ひょっとしたら、すぐそばで生きている、クラスメートにもいそうな”すずさん”が体験した出来事。そんなふうにかんじさせてくれるのんさんの声。
 他の共演者の演技。
 それでいて、監督がこだわりに抜いた時代考証と、原作に裏付けられる時代感。

 時代に翻弄されつつも、その土地に根付きお互いを思いやり助け合いながら生きていく姿。
 山間の一番外れにある家で暮らす人々。中央(政府)からみたら、”世界の片隅”だけれども、しっかりと人が生きていく姿を丁寧に綴る。
 その愛おしい日常が、一瞬にして奪われる。
 唖然とし、一瞬何が起こったのか戸惑う。
 愛しきものの安否を求めさ迷う。
 そして、事実を知った時…。
 喪失感。
 否認。
 怒りとも微妙に違う慟哭。
 それでも、日常は続き、生の営みは続いていく。
 失った心を埋めながら。
 様々な感情を抱えながら。

★ ★ ★ ★ ★

 「戦争加害者としての責任」が描かれていない等の批判があると聞いたが、
 あの頃の庶民はこんな感覚だったんじゃなかろうか。

思想統制・情報統制が行われていて、ほとんど家の周りの世界しか知らなかったあの頃。
 実際に政府が何を考えて行い、世界がどうなっているのかも、わずかばかりに伝わってくる歪曲された情報をもとに判断するしかない。
 情報をうのみにせずに、自分の頭で考えて行動することを訓練するはずの学校は、上からの指示に従うだけのロボットを作るだけ。
 (反対に、自分の頭で考えた人の末路。)
 軍事工場がどのような意味を持つのかも深く考えず、就職先ができた、格好いい戦艦が自分たちの力で作れたと喜ぶ。
 思想統制・情報統制の影響で、悪い奴らをやっっつける尊いものを作っている感覚すらあるのだろう。

その一方で。
 心では嫌々出征兵士を送りだす場面や、学校に行っても意味ないと、本当に生きていくために必要なものを見極める力が描かれる。

機銃掃射、焼夷弾、原爆投下等は迫力満点。観ているだけなのに、鑑賞者である自分が犠牲者になるのではないかという臨場感満載。

反面、亡くなられた方の様子、原爆被災者の様子は、さらっと書きすぎていて、その痛みは想像するしかない。
 否、すずさんを襲った不慮の事故のあと、すずさんや義姉の苦しみ様はきちんと描かれているのだが、わかりやすく喚き散らして心情を吐露するとかの方法はとらず、時にイメージ的に表現され(直後の描写)、時に心を押し隠して態度・行動にでるという日本時的には”あるある”で表現される。

見方によっては、のほほんと、幸せに暮らしているように一見映る。
 実際は、祖母に嫁入り道具としてもらった着物をモンペに直すとか(私だったら絶対嫌!!!)、家族が死ぬ、友達が死ぬ、お腹いっぱい食べられないとか、一緒に暮らしていれば喧嘩もするだろうけれど、それがかなわない夫婦とか、本来しなくていい苦労が次々に襲ってきており、その度すずさんとその家族は苦しみながらもユーモアで乗り切ろうとしているだけなんだけど。

 ラストも、一見ハッピーエンドで終わるが、原爆症がどういうものかという多少の知識を持っている我々からしたらその後がとっても気になる。決してハッピーエンドではない。

それでも、
 広島や長崎は復興したし、(だから福島をはじめとする被災地も復興するし)、
 一緒に暮らす人を思いやりながら生きていけばなんとかなると、 この映画を見て思う。同時に、
 戦争等の人災によるいらぬ苦労や悲しみは、二度と起こしてはいけないと誓いたくなる。
 そして、
 インターネットをはじめ、一方的に提供される情報だけを信じる怖さにも自戒せねばと思う。

童話チックな映画でありながら、こんな生活に追いやった状況に怒りを感じ、それでも、すずさん達の生きざまに希望を見る。
印象なんて、一言三言で済まされるものではなく、いろいろな思いが沸き上がってくる。

この漫画と映画に出会わせてくれてありがとう。
今を生きるこの世界の片隅から、生きとし生けるものすべてに、心からの感謝を伝えたくなる。

とみいじょん
CBさんのコメント
2023年5月10日

戦争の恐ろしさ。それは、日常が戦地だということに、あっという間に傷つき、大切な人を亡くして、初めて気づくという怖さなのだと感じました。それをこんな風に実感させてくれたこの映画に感謝です。楽しく、美しく、そして限りなく怖かった。

CB