「どんな時代にも日々の暮らしがある」この世界の片隅に スペランカーさんの映画レビュー(感想・評価)
どんな時代にも日々の暮らしがある
戦中の広島を描いた作品ともなれば、確実にあのことは避けて通れない訳で、かなり重い作風になっているのだろうなと思ったら、思いのほか笑いが絶えない作品になっていてちょっとビックリ。
でもまあ確かにそうだ、戦争が起こっても日々の暮らしは絶対ある訳で、それは他愛もない話もするだろうし、笑いも起こるだろうし、恋心も抱くだろうし、お腹も空くだろう。
当然ながら当時の暮らしを知らない者としては、主人公・すずの暮らしぶりを通して当時の人達はどんな暮らしをしていたのか疑似体験することができ、とても見応えを感じた映画でしたし、小規模公開ながら大ヒット&高評価連発なのも思わず納得の内容だったなと思いました。
しかしすずのキャラクターが何とも言えないおっとり感、のほほんとした性格で、とても癒されたなぁ。
彼女について丁寧に描かれたモノローグのおかげで、物凄く物語りに入り易かったし、すずと言う人物に物凄く心惹かれました。
戦争が激化する暗い時代に突入しても、彼女がいれば間違いなく笑いが絶えない生活を送れそうですね。
あまりの天然ぶりに何度も笑わせてもらいました、夢見がちで、絵を描くのが大好きだった設定も作品をより良い物に彩っていたと思いましたよ。
そのすずに命を吹き込んだのんの声がこれ以上無い嵌り役、やはり唯一無二の存在だなと改めて実感しました、実写での復活も心待ちにしています、そして周りのプロの声優陣も完璧サポート、聞き応えがあって本当に素晴らしかった。
でも笑いが絶えない作風だったからこそ、ささやかな幸せを蝕む戦争と言う暗い影が、ズシリと心に重くのしかかりましたね。
当時の人々は一体今がどんな状況で、この後どんな結末を迎えるのか知らない、そう思うと胸が締め付けられる思いで一杯です。
現実はもっともっと悲惨だったのは間違いない事実、いろいろな意見があるのもよく分かる、でもあの時代を描いた映画がこれだけ話題になり議論が巻き起こるのは、とてもいいことだと思います、そしてこんなアプローチの仕方もあるのだなと、あの時代を描いた一つの映画として私は素晴らしいと思いました。
終戦の日、おっとりとしたすずが、珍しく感情をあらわにしたシーンは特に印象的だったなぁ。
しかしどんなに様々な感情が交錯しても、命あるものはそれでも生きていかなければならない、そんな中での希望溢れるエピローグを見ていたら、自然と泣けてきました。
感動の押し売りもなく、しかも説教臭くなくあの時代を描いていたのはホント素晴らしかったね。
そして当時の人々が耐えて耐えて生き抜いてくれたからこそ今の時代があるんだなと、再認識させられた映画でした。
絵のタッチの優しさも印象深かったです、お義姉さんのキャラクターも何気に好きだったなぁ。