劇場公開日 2015年10月31日

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「職人芸を見よ!」俺物語!! ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5職人芸を見よ!

2015年11月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

幸せ

「映画 鈴木先生」などの作品で、小規模ながら良質の作品を演出してきた河合勇人が、「HK 変態仮面」等で俳優として高い評価を獲得している鈴木亮平を主演に迎えて描く、異色少女漫画の実写化。

予め断わっておくが、本作は米の映画ライターが「驚嘆。これを見ずして何を観るのか」と絶賛のコメントを送り、仏の芸術評論家が「鑑賞後、立ち上がれなかった」とむせび泣くような壮大な大作ではない。世界の映画賞が引っ張りたくなる予算の映画でもない。

これは決して本作の魅力を否定する言葉ではない。物語の、原作の持つべき規模、世界観を的確に捉え、あるべき形で料理したまさに「佳作」と呼ぶに相応しい一品だという事だ。

いかつい風貌と男臭い雰囲気で、男に惚れられ、女に怖がられる高校生、剛田猛男。街でチンピラに絡まれていた女子高生を助けるが、その女子高生に猛男は見事に一目惚れ。恋愛の喜びと苦悩の毎日に突入するが・・。

原作を手掛ける河原和音(代表作:高校デビュー、青空エールなど)の作品の特徴ともいえる(と、勝手に考えているが)、一本の軸をベースに展開するオムニバス形式の作劇術は、多面的に物語を描けるという長所とともに、語り口が散漫になりがちな短所もある。だが、本作はその原作内に散らばったエピソードを巧みにつなぎ直し、100分強という少女漫画原作の作品としては比較的短めな尺に、無駄なく収めきっている。

原作では猛男と凛子は一巻にて想いを伝え合うが、その多少強引な展開を、登場人物周辺の人間関係もスパイスとして織り込みながら、スムーズかつスピーディーな群像劇として語り直す。丁寧な視点が光る演出である。

鈴木、坂口、永野の主要キャストに関しても、それぞれの演技スタイルときちんと理解、尊重した上で、無理のないキャラクター作りに成功しており、観客としてはとても心地よい。

中でも、本作でほぼ主要キャストとしてはお披露目となる永野の魅力は興味深い。初期の綾瀬はるかを思わせる透明感と、スクリーンに映える、良く通る低めの声。なるほど、学園ドラマの演出において女優の味わいを演出で引き出してきた作り手の、役者を活かす腕の見せ所であろう。今後も、楽しみにしたい素材である。

「ヒロ●ン失格」「ストロ●・エッジ」など、作品のもつ規模観、見せるべき作品のテーマを若干無視して大作化に突っ走る作品が近年の少女漫画原作映画界(長い・・)を賑わせるなか、端正に、冷静に原作に寄り添って、あるべき世界を描き切った本作。今後の映画制作サイドの方々にぜひ鑑賞いただき、「佳作」の滋味を実感頂ければと願う。

これぞ、職人の語り口である。

ダックス奮闘{ふんとう}