「母と娘、子離れと巣立ちの物語」エール! kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
母と娘、子離れと巣立ちの物語
米リメイク版がアカデミー賞にノミネート。
オリジナルは未観賞だったので、Amazon Prime videoにて。
酪農業を営む両親と弟は聴覚障がいを持ち、家族の中で唯一健聴者である女子高校生の主人公が、音楽教師の導きによって歌手を目指す物語。
主人公のポーラを演じたルアンヌ・エメラは、音楽オーディション番組で人気を得てデビューしたフランスでは注目の歌手らしい。歌手デビューとほぼ同時に本作でスクリーンデビューし、この演技でいくつかの賞を受賞している。デビューアルバムもシングルカットも国内チャート1位を記録したとか…。
原作があるのか、モデルがいるのか、オリジナルストーリーなのかは知らないが、彼女あっての映画だ。
韓国映画『野球少女』とはシチュエーションもテーマも違うが、親は子供の進路(将来)が安全・安心であることを願いつつも、子供のポテンシャルを信じて冒険を後押しすることができるか…を問う点において似たものがある。主人公が女の子だから、対角線の先が母親になるのも同じ。
ポーラは歌のことをなかなか家族に言い出せないのだが、普通は子供が何に熱中しているか親には多少は見えるものだ。が、聴覚障がい者の両親に「唄っている」ことは分かりづらい。これがドラマに皮肉な展開を与える。
クライマックスまでは、ポーラの可哀想な面が強い。
健聴者として生まれたばかりに、家族の通訳として世間との対面に立ってきた彼女。
母親は娘が生まれたとき、健聴者であることを知って「育てられない」と嘆いた。
父親は「聾唖者として育てよう」と励ました。
そして今、娘は「両親を見て育った、聾唖者の心を持っている」と伝える。
だが、母親は「それなのに歌を唄うのか」と責めるのだった。
娘の歌の実力が計れないから、芸能界は怖いという親心もあるにはあるが、映画の前半は明らかに子離れできない母親の姿を描いているように見えた。
自分にとっては、いつまでもベビーちゃんなのだ。
合唱クラスの発表会で娘の実力を両親は感じることになるのだが、その背後には、この発表会にかける音楽教師の作戦があった。直接的に教師の行動は見せないが、ボーイフレンドに協力を要請してデュエットを披露することができたのだ。
オーディションを諦めたポーラに、一度でも観客の前で唄うことを経験させたい。親たちに彼女の歌を聴かせたい。自分が見出だした才能に、光を当てたい。そんな思いが教師にはあったのだと思う。
発表会でポーラが唄う姿を両親が見たあとは、胸を打つシーンが連続して大団円を迎える。
エンドロールには、「その後」だと思われるスチールが写し出される。父親が村長になれたと思わせるスチールもあった。
感動の余韻を「ほっこり」させて胸に馴染ませてくれる、良い幕引きだ。