「個性的な家族のチャーミングな笑いに溢れた心温まる映画。」エール! 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
個性的な家族のチャーミングな笑いに溢れた心温まる映画。
フランスの片田舎で暮らす少女が歌の才能を見出されていく物語。特に家族が全員聴覚障がい者であることを除いては、極めて王道なストーリー展開と言っていいかもしれない。しかしそれはこの映画にとって必ずしも欠点ではない。その王道の分かり易さが実に心地よく、安心感があるからだ。最後の最後に、手話を用いながら歌う姿など、分かり切っている展開だと思いながらも、やっぱり感動を覚えてしまった。寧ろ、こう来てほしい展開にちゃんと来てくれた!という快感に近い感覚。それは王道の醍醐味。
しかし、それ以上にこの映画を愛したくなるのは、主人公含める家族全員のチャームが輝いているからだ。彼らは全員、陽気でユニークで個性的でとても面白い人々だ。突然村長選に出馬を決めた父親も、派手好きでヒロイン気取りの母親も、年頃でマセた弟も、そしてもちろん歌の才能を開花させる唯一健常の主人公も、全員が全員粒だった個性を持っていて、その個性的な彼らの繰り広げる言動の可笑しみが喜劇に活力を与えて何度も笑いに誘われる。本当に愉快で楽しい。主人公の歌の威力にまったく負けないチャーミングさを全員が持っているからこそ、コメディとして力強く成立する。
2時間を常に温かい気持ちで過ごせる映画、というのはやっぱり嬉しいし大切だと思う。家族は聴覚障がい者だけど、映画は特別にこの作品を通じて障害について考えてほしいなんてことは(いい意味で)恐らく考えていないのだろう。だから何の押しつけも感じることなく、素直に物語を楽しめる。
「ハートウォーミング・ムービー」「フィールグッド・ムービー」と呼ぶと、どこか毒にも薬にもならない映画を皮肉ったみたいに聞こえてしまうことがあるけれど、作品に少しでも嘘があると一瞬にして破綻してしまうのがハートウォーミング・ムービーの難しさ。それを難なく飛び越えて軽やかで爽やかな喜劇を楽しませてくれたこの作品。愛らしくて可愛くて愛おしくて好きになりました。