「.」追憶の森 瀬雨伊府 琴さんの映画レビュー(感想・評価)
.
自宅にて鑑賞。原題"The Sea of Trees"。描かれるつっけんどんでシニカルな生死感とは裏腹にゆったりと流れる救済の物語が不思議にマッチしていた。舞台の青木ヶ原樹海を始め、我国の描かれ方も現実とかけ離れておらず、和を意識したと思われるBGMも悪くなかった。水墨画の様な味わいがある彩度を抑えた画面(特に夜)は、進行と共に徐々に鮮やか味を増し、ラスト近くでは木々の緑の補色に当たる赤い上着とのコントラストで、視覚的にも余韻を残す。繪面同様、幻想的なプロットも好みの分かれる処であろう。70/100点。
・少ない出番乍ら、キーとなる“ジョーン・ブレナン”のN.ワッツ、歳を重ねた等身大な役柄で魅力的に映えた。“アーサー・ブレナン”のM.マコノヒー、この人は自暴自棄な役柄がよく似合い、泣き乍ら愁いを帯びて哂う表情がとても佳い。
・渡辺謙演じる“なかむらたくみ”一人娘の“ふゆ”は良しとして、妻の“きいろ”と云うネーミングは如何なものか──そして日本人には違和感を憶えるこの名が、その儘ネタバレへと繋がる。この為、後半にA.ヨシハラ演じる“メンタル・サポート”が「それ(その名)は……」と解説しかけるのを遮るシーンがある。
・魂の再生とも呼ぶきプロットは、その癒しの過程がただ森を彷徨うだけで変わり映えしない単調な画面や起伏の乏しい展開、神秘的なだけでなくスピリチュアルにも解釈出来るオチ等は、日本国外での評価は必ずしも芳しくなく、第68回カンヌ国際映画祭での初上映後、ブーイングを持って迎えられた。
・森でのロケーションは、青木ヶ原以外でマサチューセッツ州アシュランドでも敢行された。M.マコノヒー演じる“アーサー・ブレナン”が森で最初に発見する死体──仰向けで捻じれた両手を上空に突き出した形状は『羅生門('50)』からの引用である。
・グリム童話内の『ヘンゼルトグレーテル』、霊があの世へ旅立つ際に咲く蘭、クーロンの法則等、伏線が散りばめられている。亦、何度か登場する『巴里のアメリカ人('51)』の劇中曲「天国への階段」の歌詞(訳詞)は、渡辺謙が自ら担当したらしい。
・鑑賞日:2017年2月16日(木)