「経済の成長が豊かな人生を作ってるわけじゃない。」シャーリー&ヒンダ ウォール街を出禁になった2人 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
経済の成長が豊かな人生を作ってるわけじゃない。
ちょっとユニークなドキュメンタリーです。ドキュメンタリーなので、ネタバレもなにもないと思うので、がっつり書きます。すみません!
冒頭、シアトルに住むシャーリー92歳と、ヒンダ86歳は、TVのニュースを観ています。
「(アメリカの)国は破綻し、社会保障費が確保できない。年金を支給できない……」
どうやら自分達が住むアメリカは、経済が低迷しているようだ。
で、2人はある疑問を持ちます。
「先進国は経済の成長が必要って言うけど、経済の成長のために、どんどん買い物をしろと言うけど、じゃ、物が増えることが幸せなの?」
「経済の成長とはなんぞや?」
「経済は成長していくべきなのか?」
「その行き着く先はなんなのか?」
私もちょっと考えてみました。経済の成長=成長を示す指針である"経済成長率"には、確かGDPが大きく関わってくる筈です。
ググるとこんな感じで計算されるようです。
経済成長率=(当年のGDP-前年のGDP)÷前年のGDP×100
GDPって国内総生産ですよね。まずは国内総生産が基準のようです。
国内総生産って何でしょうか?簡単にいうと、"一定期間、国内で生産された付加価値の総額"です。"生産された付加価値"ってなんでしょうか?
本作でも流れるんですが、この質問の答えはロバート・ケネディの「経済危機」の演説の中にあります。
"アメリカのGDPは今や年間8000億ドルを超えている。
これでアメリカの何が分かる?この8000億ドルの数字の中には、大気汚染やタバコの広告、救急車、核ミサイル、パナーム弾なんかが含まれている。しかしそこには、子供の健康、教育の質、詩の美しさ、夫婦の絆は含まれていない。
国内総生産は、人生で生きがいを感じるもの以外を評価している。"
そんな物で、国の豊かさは計れないと。
つまり、経済の成長が、国民の豊かで幸せな人生を作るわけじゃないということ。
なのに何故、経済は成長していかなくてはいけないのか?
シャーリーとヒンダはその答えを求めて、電動車椅子のゆっくりとした歩みで、ワシントン大学に乗り込みます。
聴講生として経済の授業に参加するも、シャーリーが教授を質問攻めにしたために追い出されてしまう。
せこせこと歩く人たちの間を、この2人がゆっくり進んで行くのが印象的で、本作の一番のメッセージだと思います。
会った人たちは「経済は成長していかなくてはいけない」と2人に答えます。
けれど、何故「成長」が必要なのか答えることができる人はいない。
そこで2人は物理学者に会う。
「1分で倍に増えるバクテリアを、瓶に入れる。11時から12時までの1時間でその瓶が満杯になるなら、その瓶が半分になるのは何分後?」
答え:59分後。
「ではバクテリア達は、瓶が満杯になることにいつ気付くか?」
答え:これも59分後ですね。
バクテリアはもちろん、地球上の人口のメタファーですね。人類は地球上の資源が食い尽くされることを、1分前、つまり直前にならないと分からないというお話です。
新たな資源、新たな燃料が開発されているけれど、それができたとしても、バクテリアの増殖の早さに追いつけない。瓶はいいずれ、一杯になる=消費されてしまう。
「経済の成長ではなく、むしろ定常べき」
危機感を募らせた2人は、世界経済の中心部「ウォール街」に乗り込んで、セレブ達が集うパーティに出席します。
本作のクライマックスは、そのパーティ会場で「経済の成長は必要なのか?」と問いかける場面でしょう。
この時のセレブの1人の暴言が、凄まじいです。こういった心根の人が、世界を牛耳ってるかと思うとぞっとします。
パーティへ乗り込んだのは、全く意味のない行動というヒンダと、種を植え付けることができたというシャーリー。
この2人、度々意見の衝突を見せるんですが、その喧嘩の微笑ましいこと。
あ、結論は、「エコ」ってお話なのです(笑)
あと経済的な成長より、個人の幸せを。
何歳になっても、やりたいことはやる!できる!んだ。
以前何かで書きましたが、ドキュメンタリーの意義は、そのテーマが学校や会社、色んなコミュニティに運ばれて、濃厚な議論が広まることだと思います。
その点、本作は、「92歳と86歳のおばあさんが、ウォール街に殴り込み!」な部分が語られ(邦題の責任でもありますが)、一番大事なテーマがちょっと広がって行きにくいのかな?と思いました。
あと原題の「RAGING GRANNIES」ですが、シャーリー&ヒンダが参加しているグループで、歌とユーモアで平和的に色んな問題に抗議活動をしているようです。その割には、本作の抗議の仕方は過激でした。グループの趣旨が全面に出る、ユーモア溢れる抗議活動であればよかったのに。