「アンドロイドは怖くて美しい」エクス・マキナ JIさんの映画レビュー(感想・評価)
アンドロイドは怖くて美しい
非日常な空間で、急にAIのテストをさせられる主人公ケイレブ。しかし彼を招待したネイサンは、AIのテストといいながら何か裏がありそうな様子。思考や感情に関するテストという状況だけに、もはや何が実験のための嘘か分からない。実験の目的も気になってくる。
AIのエヴァは、ネイサンを信用しないよう言う。あまりに出来がいいアンドロイドのため、言っていることが本当か嘘か、感情があるのか計算して導いた言動なのか分からない。
ゆったりしたテンポで進行する話。そのため、僅かな表情の変化から、ケイレブの感情の変化、エヴァやネイサンの言動の真意を見極めようと必死になれる。
ヒトと人工物、真と偽の繊細なあいまを読み取ろうと、目が釘付けになった。そうした曖昧な情報の見え隠れが、一つの見どころでもある。
顔と手だけに皮膚があり、腹などは透けているというエヴァのデザインが、カッコいい。滑らかに動くけど、動いた後はスッと静止するし、機械の駆動音もあるからアンドロイドとして観れて、とても新鮮な感じがする。細かく積極的に動く感じが、反って人間を真似ようとするアンドロイドに見えているのかもしれない。視覚体験として面白い。
インテリアのデザインもきれいだ。野外の風景のカットも良い。作品全体を通してシックなトーンの色彩が美しい。とてもよい調和が取れている。他にも停電時には極端に彩度の強い赤が現れるなど、色味の使い分けが豊かな情報を与えてくれる。
人間そっくりなアンドロイドの話であり、肉体を意識させる絵は丁寧に意図して作られている。肌の露出が良く見かけられるが、生物的な肉体の生々しさはない。柔らかなライティングの効果が大きいと思うが、キョウコが肌をめくるシーンでも、そんなに気持ち悪くは見えないようになっている。全体に清潔感がある印象。キョウコがサーモンを切るシーンはエロティスムの暗示かと思ったが、さりげないレベルで生々しさは少ない。ここは包丁を見せて最後にネイサンを刺すシーンとのつながりを持たせるためのカットでもある。この包丁、ネイサンを殺すシーンではもの凄い切れ味で、少しぎょっとした。
ポロックの絵は、無意図、オートマティックそのものだが、描くという意思無くしては創られないものだった。つまり、ポロックの絵は純粋な創造の意思のみでできていると解釈できる。何かをしようという意思にこそ価値があるというネイサンの信念があり、AIに意思を与えたいという彼の望みが投影されている、のだと思う。
その他にも、ネイサンの部屋の外にある五つの顔の飾りや、テーブルの上の骸骨とか、小物のディテールには丁寧に意味があって情報が豊かだ。
アンドロイドにエヴァと名付けるアイディアはありがちな気もしたが、欠点ではないと思う。ダサいとは思わない。
AIって怖いと思ったが、同時に美しく興味深いとも思った。町に出たエヴァがその後どうするか考えるのが面白い。人間観察や知的な成長を求め続けるのだろうか。そうして、より人間そっくりになっていくのだろうか。
単純な良いか悪いかの判断では片付かない、AIに対する認識が一歩深まった。