「人間はロボットに惑わされてはいけない」エクス・マキナ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
人間はロボットに惑わされてはいけない
昨年夏の全米公開時から気になっていたこの作品。
アカデミー賞で「スター・ウォーズ フォースの覚醒」「マッドマックス 怒りのデス・ロード」「オデッセイ」など大作を抑え、視覚効果賞をサプライズ受賞した話題のSF。
久々に斬新なアイデアとオリジナリティーが冴えたSF。
SFと言うより、密室心理サスペンスと言った方が合ってるかもしれない。
舞台は人里離れた山間部にある邸宅兼ラボ。
登場“人物”は2人。その邸宅の家主で世界的IT企業の社長ネイサンと、彼の会社で働くプログラマーのケイレブ。
そして、ネイサンが開発したAI搭載アンドロイド、エヴァ。
SF設定であるエヴァの存在が話の大きな主軸となる。
ネイサンに招かれ、エヴァの対話テストを行う事になったケイレブだが…。
このエヴァが、非常に精巧に造られている。
見た目は顔だけ人間の表皮を被り、体は機械の内臓剥き出しという異様なものだが、思考は人間並み。“恋愛感情”もプログラムされ、性交渉も出来るという。
純真無垢で儚く、ミステリアスな“女性”の魅力を秘めたエヴァ。
邸宅には監視カメラがあるが、度々原因不明の停電が起こり、その一瞬だけネイサンの監視外に。ケイレブに打ち明けるエヴァの訴え。
これは全てプログラムか、AIの自我か。
それとも、ネイサンの仕組んだテストか。
ケイレブは心をかき乱されていく…。
何と言っても、アリシア・ヴィキャンデル!
異様なビジュアルも美しく見えてくるから不思議。
無機質な表情、仕草、その一方、アンドロイドの内なる感情。
映画史上に残るロボット演技であり、ラストは“史上最も美しいアンドロイド”に一切の偽りはない。
翻弄され続けるケイレブ役のドーナル・グリーソン、支配者的なネイサン役のオスカー・アイザック、奇しくも「スター・ウォーズ フォースの覚醒」繋がりの二人の対極的な演技も出色。
独特の映像美、世界観、巧みな脚本…アレックス・ガーランド監督の手腕は称賛もの。
CGはサポートに徹し、これがオスカーを受賞した事はCGがメインに氾濫する昨今のハリウッド映画界で大変意義がある。
低予算を逆手に取ったアイデア勝利。
やはりSFはアイデアだ!
オリジナリティー溢れながらも、過去の名作SFへのオマージュも感じ取れる。
人間とAIの心理戦の設定、淡々としながらも恐ろしさと緊迫感が途切れない作風は、言うまでもなく「2001年宇宙の旅」。
邸宅にはハウスメイドのキョウコがおり、ちょっとネタバレだが彼女もまたアンドロイド。キョウコが自分の表皮をめくりケイレブに機械の内臓を見せるシーンは、あくまで個人的な意見だが「ウルトラセブン」の名エピソード「第四惑星の悪夢」を彷彿させた。
(この直後、ケイレブがある事を行うシーンは、“血”と“痛い”が苦手な人にはゾッとする)
ラストは戦慄。
それこそ似たようなテーマを含む「2001年宇宙の旅」「ターミネーター」より震撼させられた。
AIやロボット技術がさらに進歩すれば、現実社会でも将来的に本作のようなアンドロイドが登場する事も決して非現実的ではないかもしれない。
神が人に命を与えたように、今度は人がロボットに命を与えた時…
それは、人の成せる崇高な技術の賜物か、人が人に等しいものを造る警鐘か。
そう思うと、人と共に笑い、泣き、助けてくれるあの猫型ロボットってスゲー発明(笑)