劇場公開日 2015年7月18日

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奇跡の2000マイル : 映画評論・批評

2015年7月14日更新

2015年7月18日より有楽町スバル座、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

主人公の内面的な成長を35ミリフィルムの質感にのせて繊細に描く

この映画のロビン(ミア・ワシコウスカ)は、4頭のラクダと1匹の犬と共にオーストラリア西部の砂漠地帯約3000キロを横断する。一方、「わたしに会うまでの1600キロ」のシェリルは、アメリカ西海岸の自然道1600キロを縦断する。

2作とも実話の映画化だが、シェリルの旅が母親の死と離婚から立ち直るための内省と贖罪の旅であるのに対し、ラクダ使いの修行から始まるロビンの旅は自分の可能性を試す冒険の色彩が強い。ロビンの年齢は20代半ば。若さゆえの無謀さも持ち合わせた彼女が、社会とのつながりを断って大自然をサバイバルする旅に挑むところは、シェリルよりもむしろ、アラスカで単独サバイバル生活に挑む「イントゥ・ザ・ワイルド」の主人公クリスに近いかもしれない。

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注目したいのは、動物や人間に対するロビンの距離の取り方。ロビンと心の距離が最も近いのは、愛犬のディギティ。2番目は、荷物を運ぶラクダ。3番目は、言葉の通じないアボリジニの案内人。いちばん遠いのが、雑誌に載せるロビンの写真を撮影するため旅の途中で何度か合流するカメラマンのリック(アダム・ドライバー)だ。ロビンにとって彼は言葉でコミュニケーションがとれる唯一の相手だが、同時に、俗世間とのつながりを意識させられる存在でもある。そこに彼女は疎ましさを覚える。そんなロビンの潔癖さと純粋さは、究極の自由を追い求めたクリスが備えていたのと同種のものだ。

しかし荒野で燃え尽きたクリスと違ってロビンは生き延びる。それは、旅の後半、リックの支援の申し出を受け入れるあたりから、ロビンが自然の流れに逆らわない生き方を学んでいくからだろう。3000キロの旅の果てにロビンは何を見出すのか? 解釈は観客それぞれに委ねられているが、私は「人間誰もが壮大な自然の一部である」という寛容な世界観が彼女の中に培われたように感じた。そんなロビンの内面的な成長を、35ミリフィルムの質感にのせて繊細に描いたところが魅力の作品だ。

矢崎由紀子

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