「繋ぎ超えていく」ブリッジ・オブ・スパイ Hanaさんの映画レビュー(感想・評価)
繋ぎ超えていく
巨匠スピルバーグ監督作。脚本はコーエン兄弟、撮影ヤヌス・カミンスキー、音楽はジョン・ウィリアムスではなくトーマス・ニューマン。面白くないわけがない並びで更なる高みへと登っているスピルバーグからの有難い映画。
近年はスパイ映画が非常に多い。MIP、007、キングスマン、コードネームuncleなどなど。本作はそういった作品と根本的に異なり、主役はスパイを弁護する弁護士の物語だ。主演のトム・ハンクスよりもソ連のスパイであるアベルを演じたマーク・ライランスがキャラクターも相まって魅力的。
地味な映画である。見せ場や何か物語の進展があるときは基本的に部屋の中であったり、電話を待ったりととにかく地味め。けれど面白い。それはやはりスピルバーグの圧倒的な演出力の賜物だろう。それに加えてアメリカというものをもう一度見直してみようというスピルバーグの真摯さを感じる。
カメラワークは昔ながらの手法で工夫に工夫をこらしたもので往年のハリウッド映画のような佇まい。カメラの動き1つでここまでハラハラさせられるものはなかなかない。
アメリカの画家ノーマン・ロックウェルの絵画をトレースしたファーストシーンでスパイという人の生き方が初見でも分かる。本作でソ連のスパイ1人と交換されるのはアメリカの軍人1人、そしてアメリカ民間人の1人。数が合わないのだが単純に困っている人を助けたいというドノバン弁護士の優しさ、ヒューマニズムによって交換までたどり着く。
国家は個人を数としてでしか認識しない。それに加えて国境といったものもある。本作ではそれがベルリンの壁といった分かりやすいもので出てくる。壁や枠なんてものは本来なら存在しない、政治の都合上あるだけだ。そこを超えても人と人は分かり合える。ドノバンとアベルはある瞬間確かにそこを超えていた。
ドノバンが説くアメリカを定義するもの、それは憲法だ。移民の集まりであるアメリカは憲法を規範として存在している。アイルランド系、ユダヤ系、イタリア系にネイティブアメリカン、アフリカンアメリカンなど挙げればきりがないほど多種多様なルーツをもつ人達が入り乱れるアメリカは憲法のもとに皆自由を約束されているはずた。
ラストでドノバンが電車から眺める子供たちは易々と家の壁を超えていった。皆超えることが可能なのだ。忘れているだけじゃないのだろうか。