劇場公開日 2016年3月19日

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「競技かるたとスローモーション映像の融合が生む軌跡」ちはやふる 上の句 森泉涼一さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5競技かるたとスローモーション映像の融合が生む軌跡

2016年4月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

「かるたって競技なの?」って思われる人が大多数を占める現代で、かるた競技で奮闘する学生を描いた大人気コミックを映画化したのはアニメファンが多いとはいえチャレンジだったと感じ取れる。
映画化するにあたりアニメファンと競技かるた初心者、双方の心を掴むのは競技かるたの存在意義だ。本作、上の句では部活創設から都大会までを描いているが、競技かるたが本格的に始まるまで見所は特にない。広瀬すず、野村周平など今が旬の俳優陣を揃えたものの粗削りな演技が目立つ。その中でドラマ色が強い前半を見せられても説得力に欠けるのは至極当然のこと。
本作が本格的に面白くなってくるのは部活のメンバーが集まり真剣にかるたに打ち込むようになってからだ。畳を叩く音や句が読み上げられる瞬間の反射神経に「競技」の真意が伝わってくる。なぜ、彼らは走り込みをするのか。なぜ、素振りをするのか。かるたのイメージは古風で紳士的なイメージだったがこれは一捻りに覆される。これらを上の句だけで成功させた演出と構成は実に素晴らしい。
では、どこに工夫が施されていたのか。目立つのは今やハリウッドでも多く使われているスローモーション映像だ。競技かるたとスローモーション映像の融合は映像に軌跡をもたらしたといっても過言ではない。静寂な場に激しく叩きつける音と飛び交うかるたを一連のスローモーションで演出することによりリアリティある空間へと変化する。自然と迫力も伝わり、部活に奮闘する演者たちも前半の退屈面からは考えられないほど見方が変わってくるだろう。
加えてアニメーションディレクターも参戦させることにより細かい部分でも楽しめるのは、漫画では表現できない映画ならではの特権だろう。「ちはやふる」という言葉が何を示したいのかを、言葉の交し合いだけでなくアニメーションにより一工夫されている面でも魅力を感じる。

森泉涼一