「ふたりで叶えた夢。叶えられなかった夢。」ラ・ラ・ランド 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
ふたりで叶えた夢。叶えられなかった夢。
本当に夢のような2時間だった。映画の魔法が振りまかれていて、ずっと夢を見ているのかと思うほど。ずっとこの夢の時間が続けばいいと本当に思った。映画が終わらないでほしいと願ったのは初めて。
オープニングから映画はフルスロットル。幕開けに相応しく、豪華で晴れやかでテンションが上がるミュージカル。オープニングの曲が終わった後、無意識に拍手をしようと手が動きかけて慌てて手を止めたほどガッチリと心を掴まれてしまった。そこからの物語にもすっかり魅了され、夢と夢を追うものと叶った夢と叶わなかった夢を描いた夢のような映画だった。
この映画を見ると、デイミアン・チャゼルが本当に音楽を愛しているのが分かると同時に、かつてジャズ・ドラムに没入していたチャゼルが今、映画の中で音楽を表現しようとしているのか、その所以までもが窺い知れるよう。この作品は、映画そのものをこよなく愛し、音楽をこよなく愛し、ロマンスとロマンティックをこよなく愛し、夢見ることをこよなく愛し、そして夢のために払う犠牲までもこよなく愛しているのが伝わってくる。過去の名作映画へのオマージュをふんだんに盛り込み、映画の表現方法もハリウッド黄金期の映画を彷彿させる演出スタイルを取り入れつつ、現代の感覚や感性を鋭く磨いて作品に投影している。これはもう21世紀に生まれた新しいクラシカル。粋で洗練されたクリシェ。気が利いていてとても贅沢なオールド・ファッション。全てのシーンが贅を尽くして美しい。もう圧倒されっぱなし。
ふたりに訪れる結末もとてもいい。ちょっぴりピターで切ない結末。だけど、同じくらい幸福で美しい結末。物語までもが贅沢で豊かで芳醇。もう何から何まで素晴らしい。どこがどう良くてどこがどう好きかって問題じゃなくって、もうすべてが良くてすべてが好き!
この美しいミュージカルのヒロインとして君臨するエマ・ストーンがまた素晴らしい。エマ・ストーンがエマ・ストーンらしくスクリーンにいて一際輝く存在感。魅力が炸裂していて、いつにも増してチャーミング。愛さずにいられない。
そしてそんなヒロインを華麗にエスコートするライアン・ゴズリングの男らしさとスマートさ。映画のために特訓したピアノの実演奏も見事なもの。当初ゴズリングがミュージカル?と不思議に思っていたくらいだったが、ゴズリングもキャリアを積む中で、スター性と共に軽快さも身に着けていたようで、ステップを踏むように軽やかにミュージカルに溶け込む。シャツの袖をまくっただけのシンプルな着こなしがこれほどバシッと決まってかっこいいのもやっぱり本物のスターという感じ。
そしてエマ・ストーンとライアン・ゴズリングが並んだ時のケミストリーにまた惚れ惚れしてしまう。ふたりの相性の良さが演技からも歌からもダンスからも伝わってくる。この最高の映画を最高以上のものにしたのは、この二人の組み合わせによるところも大きいと思う。主演男優と主演女優の間に迸る情熱を堪能する悦びにも満ち溢れていた。
この映画が日本で公開されている間、私は何度でも映画館に足を運ぶと思う。何度も観て何度も聴いて何度も感じて、スクリーンに映るすべてを目に焼き付けたい。この映画は映画館で観なければ意味がない。ブルーレイや配信を待っていてはダメ。映画館へ行かなければ!
私たちがどうして映画を好きなのか、その理由を思い出させてくれる映画。それが「ラ・ラ・ランド」だ。