「かっちりした結末がみたかったです。」ラ・ラ・ランド 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
かっちりした結末がみたかったです。
今年の米国アカデミー賞作品賞の最有力なのが2月24日公開のミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」です。既にアカデミー14ノミネートで、オスカー大量獲得の可能性は高いでしよう。試写会でも超満員の熱気のなかで大きな拍手に包まれて終わりました。
本作は、どこか懐かしいミュージカル作品。この昔風のミュージカルの世界に入れる人と、さっぱり解らんと拒絶する人とで、評価が真っ二つに割れる作品だと思います。ミュージカル作品というと、冷静に見るとどこかマヌケに見えてしまいます。だってアクション映画なら、例えばナイフで決闘し、最後に相手を刺しちゃうシーンとしましょう。刺したやつが、死んでしまうのでなく、突然歌いだして踊ってしまうわけです。廻りで見ている人たちも、踊り出して、つい止血が大事だろうって考えたりしませんかぁ?
なので本作にストーリー性を求めるのは酷なことだと最初から割りきってください。その分とにかく映像がファンタジックで、ふわッとした夢の国に包まれました。
もうオープニングからして、ミュージカル映画の歴史的快挙というべき、凄いシーンからはじまります。
朝通勤ラッシュで渋滞中の、ロサンゼルスの高速道路。くるまは全く動きません。しびれを切らした若者が突然、くるまから降りて踊りだします。そしたら何百人が、続々と高速道路で踊り始めるのです。これが本物の高速道路を貸し切っての一発撮りで、CGを使ってないから驚きです。カーブした高速道路の奥の奥の見えなくなるところまで、ずっとキャストが踊っていました。
プラネタリウムでのデートシーンでも、ワイヤーアクションで空中を飛んだりと、実に魅せてくれます。かと思えば、タップダンスを披露して、往年のMGMミュージカルの名シーンを彷彿させたりと、オールドファンへのサービスもぬかりありません。
まだ鑑賞を迷っているひとのために、少し内容もご紹介しておきます。
本作は、女優志望の卵ミア(エマ・ストーン)とジャズライブの店を夢見るピアニストのセバスチャン(ライアン・ゴズリング)が偶然出会って恋に落ちる、恋とアメリカンドリームの物語です。
全体は、起承転結を四季になぞらえて、春・夏・秋・冬の4つのパートに別れています。それに先だって、策ほど述べたプロローグが独立してあり、キャストたちが"逆境のなかでも諦めなければ、きっと夢は叶えられる"という作品のテーマを歌い上げれば、一気に作品の世界に誘われることでしょう。
春のバートは、出会いのバートです。
何度もオーディションに落ちてすっかりへこんでいたミアは、ピアノの音色に導かれるようにジャズバーに入ります。このピアノ独奏のサブテーマ曲“ミアとセバスチャンのテーマ"は、ラストシーンにも登場する本作のキーとなる曲です。実は“荒城の月"をアレンジした曲ところが驚きです。この感傷たっぷりの演奏をライアン・ゴズリングは2ヶ月の特訓でマスターしていたとはとても思えません。
いずれにしてもセバスチャンと出会うきっかけとなるこの曲のシーンは、とてもドラマチックなものでした。
店に入って、セバスチャンの演奏に魂が惹き付けらるほど見入ってしまうミアの表情も印象的。運命の出会いを感じさせてくれました。
その後、偶然の出会いを繰り返していったふたりは、やがて恋に落ちます。
夏のパートは、恋がスイングするパートです。
夏の開放感に準えて、二人の恋もスイング、音楽もスイング、スイング!全編がジャズの夏です。チャゼル監督の主役は、本作でもやっぱりジャズなんですね。で今回は、ソフトにこんなにジャズって楽しくて、ロマンチックなのだよと言うことをさりげなく訴えかけていると思います。そして主人公は監督の分身となり、古きよきジャズの復権に奮闘するのでした。ミュージカルのパートも、よく聞いているとなにげにビックバンドですから、念がはいっています。
秋のパートは、恋がメロウに変化していくパートです。
映像も音楽もしっとりした秋色に変わります。あれほど仲の良かった二人にも、セバスチャンがジャズをやめるいったときから、隙間風が吹き出します。セバスチャンは店を持つための資金として、当面稼げるバンドの仕事に打ち込むと言いだします、しかしミアはお互いの夢の実現を固く誓い合ったのに、ジャズから離れるのは筋が違うと言い張るのです。セバスチャンにすれば、ジャズライブの店を持つ一時の方便のつもりでした。
ふたりは次第に疎遠になり、ミアにはパリでの大作のオーディションのチャンスが巡ってきます…。
冬のパートは、"タラレバ"のパートです。
前のパートより5年が経過していました。この間は、観客の想像に委ねられています。女優志望のミアとピアニストのセバスチャンの恋と成功はどうなったのでしょうか?このパートでは、いろんな結末に展開を見せてくれます。それは、「もしあ~だったら」というタラレバ表現でサービス精神旺盛です。でも、ヒューマンドラマが好きなものとしては、かっちりした結末がみたかったです。まぁ、ミュージカルとしては、こんな感じがいいのかもしれませんね。タラレバがブームなのかも(^^ゞ
こんなにファンタジックが満載の作品ならば、ストーリーそっちのけのラブラブなカップルには、バレンタインととホワイトデーを繋ぐ、恋が深まる今年最高のデートムービーとなることでしょう。素敵な人とぜひスクリーンにお出かけください。
エンディングの唄入り"City of Stars"も良かったです。
☆"City of Stars"
(YouTube)
☆La La Land - Full OST / Soundtrack (HQ)
(YouTube)
“ミアとセバスチャンのテーマ"は日本の滝廉太郎の荒城の月をカバーしたアレンジ曲。加えて、本作が鈴木清順監督の『トウキョウドリフターズ』(東京流れ者)をオマージュした作品であることと相まって、なかなか日本びいきな作品です。