「絆の糸を歪に結ぶ数学者たち」奇蹟がくれた数式 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
絆の糸を歪に結ぶ数学者たち
天才的な感性で数学の公式を見つけられてしまうインド系の青年と、イギリスの数学者との歪な友情と、二人の功績の物語だ。時代が時代だけに、インド系のエリートでも何でもない青年が突如スポットライトを浴びるのを批判的に見る人もいる。また同時に青年には公式をひらめきこそするものの、それを証明するという感覚がなく、数学会においては正式に認定できるものではないという頼りなさもある。天才型の青年と、学術的な思考の理論的な数学者という組み合わせが、衝突しつつも友情に似た絆を築き上げていく様にドラマを感じる作品だった。
かと言って二人の友情に湿っぽい馴れ合いっぽい要素はない。むしろ人間関係や対人関係が得意ではない者同士が、まったく噛み合わない動作を繰り返しながら、綺麗に絆を結ぶことが出来ないがために、かえって縁の糸が不格好に固結びされていくような不思議な友情の形成のされ方で、中盤まではまさか友情の物語だなんて気づかないかもしれないほどだった。
もちろん、移民である青年が数学のエリート世界で目を出す物語としての快感もあるし、それに伴う苦しみもきちんと描かれていて良い。実話であるが故に逃れられなかった「病」という展開にはいくらか違和感を覚えたが、(繰り返しだが)実話であるが故仕方がないのだろう。
もはや、インド系の好青年役はほぼ専売特許になっているデーヴ・パテールの演技は安心して見ていられる温かみがあって好きだ。「マリーゴールドホテル」のようなコメディもできるし、こういったドラマ作品でずしっとした演技もできる。それでいて爽やかで愛嬌があって素敵だ。対するジェレミー・アイアンもさすがの貫禄で余裕の懐を魅せる。数学のことに詳しくなくてもきちんと楽しめるようになっているし、実録ものの歴史的な文化作品としても、感動的な友情と絆の物語としても十分楽しめる良作だった。