「歌声は見事。盛り込み過ぎのドラマに難あり。」天使にショパンの歌声を 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
歌声は見事。盛り込み過ぎのドラマに難あり。
邦題があまりにも狙っているので憂鬱になるが、見終わったら「この程度の邦題でちょうどいいか」と思えてしまう感じ。さすがに「天使にラブソングを・・・」の路線でないことは明らかだが、かと言って上質なドラマか?というと首を傾げてしまう。
学校の存続問題、ピアノコンクール、修道女たちの新しい価値観とその在り方、問題児の姪の存在、吃音を持つ地味な女生徒、姪の母親(主人公の姉妹)の病・・・という具合に、盛り込むだけ盛り込んで、いずれも描き込み不足という中途半端さが否めない。いずれも、同じ学校内で、同じ敷地内で、同じ建物の中で起きている、同じ人物を中心に発生しているエピソードであるはずなのに、いずれのエピソードもほぼ呼応し合うということがなく、溶け合っていかない。全てが四方八方バラバラのベクトルを向いて、ごちゃ混ぜに投入されるばかりでまとまっていないという印象が強く残った。
この映画、修道女たちの悪いイメージを助長するようなところがあってあまり心地がよくない。吃音の生徒に対して授業中に早口言葉を言わせようとしたり、感情的な演奏をするなと感情的に喚いたり、隔離された環境の中で世間を見ずにひたすら独善的になった女たちの姿が次々に映し出され、これではクリスチャンのイメージを損ねてしまうのでは?と戸惑うほど。
もちろん、そういった閉鎖性や独善性に一石を投じる姪の存在や、修道院が現代社会と折り合いをつけていく様というのが描かれてはいるのだけれど、そこから生まれるドラマは大分物足りないものがあり、結果、クラシックを聴いて癒されるためだけの映画に収まってしまった(だからこの邦題でも別に構わない気がした)のは惜しいような気がした。
確かに、作中で披露されるクラシックはお見事の一言で、美しい声の層の厚さと深みと嫋やかさは一聴の価値ありと思わせるものがあった。だからこそ、「綺麗な歌声だったね」「素晴らしいピアノの演奏だったね」と言うためだけの映画で終わらせてはもったいなかったのではないか?と思ってしまった。