「過去からの解放に70年は短いのか。」黄金のアデーレ 名画の帰還 だいずさんの映画レビュー(感想・評価)
過去からの解放に70年は短いのか。
年末に名作を得たという満足感がありました。
法廷劇のハラハラドキドキと、勝利のカタルシスと、勝ってなお苛まれる被害者に植えつけられた罪悪感の重み、苦味とが多層的に織り交ぜられており、物語の旨味がぎっしり詰まっております。
マリアとランディのでこぼこバディものとしても楽しく見られますし、オーストリアのユダヤ人たちが受けた迫害の歴史、その苦しみが今もマリアから消えない様も突きつけられます。
特に、強く印象に残ったのは、マリアの苦しみの根っこには、ナチスやそれに従ったオーストリア人たち、国家としてのオーストリアへの怒りだけではなく、親を捨てざるを得なかったことへの後悔が強いのだということです。
彼女は被害者なのに、裁判に勝っておばの肖像画を取り戻したのに、大好きな親を捨ててしまったことをいまだ悔いている。責めないでいいんだよ、と思うけど、そうなるよね、と改めて感じました。
人の生んだ悲劇の遺産はこうも重いのか。
辛い過去から自由になるのに70年では足りないのか。
そんな苦味が残りました。
回想でマリアの母を演じている方に、とても見覚えがあり、多分あの日のように抱きしめて、で、自殺したユダヤ人の友人役の人じゃないかなぁと思います。
調べたんですが、裏は取れなかったのですが。
ランディの成長物語としても見られます。奥さんがよかったです。
ヘレンミレンが若々しくて、80代の役だとわかりませんでした。どうりで「私が死ぬのを相手は待ってる」みたいなセリフがでてくるわけだ。いっても70位やのにそうそう死ぬかいなと思って見てました。
80代はあんなにしゅっしゅっと歩けないよ?あんなにヒール履いてられなくない?とか思いました。
や、キリッとしたヘレンミレン、素敵でしたがね。