劇場公開日 2017年1月27日

  • 予告編を見る

スノーデン : インタビュー

2017年1月25日更新
画像1

オリバー・ストーン監督、批判と皮肉の矛先はトランプ政権にまで…

米国家安全保障局(NSA)の職員だった1人の青年が行った、米政府による国際的な監視プログラムの存在の内部告発。世界中を震撼させたこの事件を、オリバー・ストーン監督が取り上げるのは必然だったかもしれない。その人、エドワード・スノーデンと何度も意見を交わし、本人の視点から描く人間ドラマとして問題提起をしたのが「スノーデン」だ。批判と皮肉を交えた舌鋒は相変わらず鋭く、熱弁は誕生したばかりのトランプ政権にまで及んだ。(取材・文・写真/鈴木元)

画像2

2013年6月、その衝撃は香港のホテルの1室からもたらされた。米政府が秘密裏に行っていた最高機密の構築に関わっていたスノーデンの告発を、英ガーディアン紙がスクープ。ストーン監督も快哉を叫んだ1人だが、すぐに映画化という思いに至ったわけではない。

「彼の告発は一市民としてとてもポジティブに受け止めた。ただ、その時点で映画にしようとは思わなかった。物議をかもすことは分かっていたし、自分の仕事でそういう経験をたくさんしてきたからね。それに映画はとても時間がかかる。ニュースは変わっていくものだから、追いかけると絶対にうまくいくわけがないんだ」

告発に立ち会ったガーディアン紙のグレン・グリーンウォルドから相談もあったそうだが、それほど興味を示さなかった。だが、プロデューサーを通じてスノーデンの弁護士の依頼を受け、モスクワに滞在している本人と会ったことでが然意欲が沸いたという。

「最初は互いに警戒心があったのか、映画にしたいという話にはならなかったけれど、彼が発したいくつかの言葉が興味をひいた。彼の協力を得られれば、内部の者から見た物語をつくれるのではないかと感じたんだ。グレンの書いた本は、あくまでジャーナリストからの視点で、インサイダーの視点から見た人は今までいなかった。彼とは計9回も会ってお互いを信頼できたから、この映画には誰も聞いたことがない情報も入っている」

14年6月に合意に至ったものの、現在も捜査中の事件であり、スノーデンも米国から追われる身。政府の圧力などはなかったようだが、製作は一筋縄ではいかなかった。

画像3

「最初からとても居心地の悪い作業だった。米メジャーにはすべて断られたが、それは自己検閲だろう。日本も出資してくれなかったしね(笑)。一瞬は落ち込んだけれど、結果、ドイツとフランスの出資で作ることになり、米もオープンロードという小さい配給会社が受けてくれた。スノーデンは、米国人には秘密を暴露した人物と見られているが、欧州では高くリスペクトされているんだ。ただリサーチは大変で、脚本に1年かかった。完成保証の契約も得られなかったしね。僕はカテゴライズされた映画を作らないから、ストレスの多い映画人生だけれど、今回は本当に難産だった」

さらに、スノーデンの人物像をいかに描出するかにも苦悩。もちろん、ジョセフ・ゴードン=レビットは本人に会い、その所作や癖などを巧みに取り入れた好演を見せているが、「皆が興味をひくタイプじゃないんだよ」と苦笑いで振り返る。

「素晴らしいことをしたけれど、受け身だし物静かだしおとなしい。性生活も抑圧されていそうだし、僕のタイプのヒーローでは全くない(笑)。でも、技術面に関してはスノーデンにかなりアドバイスをもらい、難しいセリフにも力を貸してくれた。彼もディテールが正確だと言ってくれたし、すごく知的なスリラーに仕上がったと自負している。NSAの内部にいる人なら分かるはずだから、驚いたはずだ。彼が言ったことはすべて真実だと信じている。もし、ウソをついているとしたら彼は最高の役者だよ」

映画は2013年6月3日の告発からの数週間を軸に、スノーデンが軍に入隊してからそこに至るまでの半生を挿入していく構造。しっかりと米政府の闇を提示しつつも、人間ドラマとしても奥行きの深いものになっている。特に、愛していたはずの国家に裏切られ絶望のふちに立たされるスノーデンに寄り添った恋人リンゼイ(シャイリーン・ウッドリー)の存在が際立つ。

画像4

「まさにその通りで、彼女はたいした人物ではないと報道では無視された。でも、スノーデンの人生の重要な9年間、ずっと一緒にいて彼の決断にも関わっていた。彼らには家があって仕事もあって高い報酬を得て、一般的には幸福といわれる状況だけれど、根本的には幸せではない居心地を悪くさせるものがあったはず。てんかんの発作で人生が短いことを知った彼は、何をすべきかを自問したと思う。そこでリンゼイが、健康のため(異動先の)ハワイに行きましょうと言ったことがモチベーションのひとつになった。愛しているのに何も言うことができないスパイ的な恋愛だけれど、彼女の価値をきちんと感じ取ってくれたのはうれしい」

米政府は監視プログラムの正当性を主張し、容疑者であるスノーデンは帰国しても公正な裁判を受けられるか微妙。ストーン監督は08年の大統領選ではオバマを支持したがその政策に疑問を呈し、今回は無所属のバーニー・サンダースらの支持に回った。ただ、トランプが大統領になったことで情勢の変化を期待する思いも膨らんでいる。

「トランプは、奇妙なことに(情報漏えいサイト)ウィキリークスと創設者のジュリアン・アサンジの価値を感じているようなので、状況は変わってきている。いかれた発言はしているけれど、ビジネスマンでもあるわけだから商取引のような形でやっていけば少し希望をもてる。どう変わっていくかはこれからだから、日本の皆さんがトランプを嫌いでも、もう少し時間をあげてほしい」

では、スノーデンに対する処遇にも新たな道が開ける可能性はあるのだろうか。こう問うと、ニヤリと口角を広げた。

「トランプがさまざまものに抗い、強くあることができれば、彼に対する追跡をやめさせることはできるかもしれない。もし、恩赦にでもなったら最高のストーリーだよ」

「スノーデン」の作品トップへ