「罪深くも、償える。偽りではない楽園で」チャイルド44 森に消えた子供たち 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
罪深くも、償える。偽りではない楽園で
スターリン政権下の旧ソ連で実際に起きた、子供ばかり狙った連続猟奇殺人事件。殺された子供の人数は、タイトルに記されている通り、44人。
犯人逮捕に奔走したKGB捜査官。
じっくりタイプのサスペンス・ミステリーで、見応えあったが、最初はなかなか入り込めないでいた。
と言うのも、当時の旧ソ連の背景に詳しくないから。ホントいつもながら勉強不足でおバカな私…。
でも、それを分かった上で見ると、より一層話にズシンと響くものがある。
20世紀最大の悲劇の一つと言われる“ホロドモール大飢饉”により、多くの子供たちが孤児に。
主人公もその一人。軍人に保護され、“レオ”と名付けられる。
成長し、戦争の英雄に。
良く言えば国に恩と忠誠を、悪く言えば国の犬に…。
当時のこの国に於いて、資本主義の敵は許されない。疑いを掛けられた者は問答無用で摘発。レオもその任に当たる。
ある農夫一家を摘発。が、その時、部下が子供の目の前で両親を銃殺。
レオは部下を激しく叱咤。これにより、部下の恨みを買う。
上司から新たな任。疑い掛かった相手は、何と妻のライーサ。
信じたくないレオ。激しく葛藤。告発するか、妻を守るか。
レオが選んだのは…。
国に背いた者の処分は言うまでもない。自分も妻も命は免れたものの、降格と地方左遷。
さらに衝撃の事実。妻は裏切り者でも何でも無かった。
レオは国に忠誠を誓えるかのテスト。
その罠にまんまとハマってしまったのだ。
彼を罠にハメたのは…。
贅沢なモスクワ時代が夢幻だったかのような地方の底辺暮らし。
しかしここで、モスクワでも起きた同様手口の事件と再び鉢合う。
線路上で何者かに殺された子供。
モスクワ時代で殺された子供は、戦友にして親友の子供。レオは名付け親。
さすがに胸が痛いレオだが、それを“殺人”ではなく“事故”として親友に報告。明らかな不審な点があるにも拘わらず。
何故なら、国がそう命じたから。
この楽園に於いて、殺人など存在しない。
国の抑圧は人の命すら闇の中に…。
ここ地方でも…。
実際の事件を基にしたノンフィクションだが、脚色やフィクションもかなりあるだろう。
犯人逮捕と事件解明に身を入れるが、国がその前に立ち塞がる。
今度は自分がKGBから追われる身。アクションも交え。
執拗で執念深い元部下との因縁。
妻との関係。ある時妻から打ち明けられた結婚を決めた秘密は、かなりのショック。当時、KGBがどんなに怖れられていたのか窺い知れる。
トム・ハーディとノオミ・ラパスのゴツい2人でロマンチックなムードは出せないが、サスペンスは合う2人。
ゲーリー・オールドマン、ジョエル・キナマン、ヴァンサン・カッセルら重厚アンサンブル。
最初はちと小難しかったが、事件に本腰入れるようになってから次第に面白くなってくる。
勿論サスペンスやミステリーのムードは充分だが、邦副題の“森に消えた子供たち”は的外れ。だって、殺された子供たちは線路上で見つかってるし。
中盤でびっくりするくらい犯人も明かされる。その末路も。まあ、未解決事件じゃないから仕方ないのかもしれないが、恐らく作品の真のテーマは別にある。
当時の旧ソ連という国の実態。
そして、その国の犬だった男の変化。
実はレオは子供に対しては温情ある。
自分がかつて孤児だったから。
元部下が両親を殺した子供へ悔やみも。
モスクワでも地方でも同じ。いい加減な捜査、でっち上げの犯人…。
犯人は未だ野放し。
子供たちが犠牲になり続けている。
二度と悲しみ苦しむ子供たちを出したくない。
今日本ではコロナや九州大豪雨が連日報じられているが、その前は殺人事件や子供虐待。
朝からそんなニュースを聞くのは気が滅入るが、それを報じれる国は悪い国では無い(と、池上彰氏は言う)。
報道や訴えの声の自由があるから。
寧ろ、報じもせず、隠す国の方こそ…。
当時の旧ソ連も、いや、今の日本や世界各国だって、楽園とは呼べない。
偽りの楽園で犯した罪の数々。
その償いを…。
レオとライーサとあの二人の孤児に楽園が訪れる日は…。