「プロモーションのミスリード。本作はミステリーではありません。」チャイルド44 森に消えた子供たち さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
プロモーションのミスリード。本作はミステリーではありません。
1953年スターリン独裁政権下のソ連のお話です。
1970年代後半~1990年にかけて、ロシア・ソビエト連邦局で実際に起こった連続殺人事件をモデルにした小説「チャイルド44」の映画化となります。
主演がトム・ハーディです。
遅ればせながら、1つトム・ハーディの良いところを発見しました。
トム・ハーディという役者さんは、"個"が似合うということです。
何かしらの圧力に屈しない。時代や、社会や、しがらみや、そんなのには縛られない!
我が道を行く役が似合うということです。マッド・マックスの時と同じく、強大な敵に自分を信じて立ち向かいます。今回は存在感がありますよ(笑)!
ということは、本作はミステリーがメインではないということです。
スターリン政権下では「殺人はありえないこと」とされており、全て"事故"で処理されていました。
何故なら「楽園(スターリンが掲げる理想的な国家)には殺人は存在しない」からです。殺人を主張すること自体が、当局への反逆罪とされます。
トム・ハーディ演じる秘密警察の捜査官レオは、親友の子供が犠牲になったことを"事故"と処理する当局に、不信感を抱きます。勿論それ以外にも、同僚の罠にハマったりと色々あるんですが。
翻訳本が苦手で、原作は未読です。
ですが映画に限って言うなら、子供だけを狙った猟奇的な連続殺人事件の謎解きや、犯人を追い詰めるスリリングな展開より、寧ろスターリン政権下の、緊迫した、異常で不気味な、でも滑稽な世界を、真っ向から否定した男に焦点を当てた"ヒューマン・ドラマ"だと思います。
だから、かなり早い段階で犯人が分かりますし、そもそもかなり影が薄いです。ミステリーとして観るなら、その点が物足りないはずです。
アメリカでの評価が低いのは、そのせいではないかと思いました。
だってそんな犯人より、この時代の方が何倍も怖いでしょう?という切り口のように思えます。
当局を恐れ虚勢されて縮み上がった男達の中で、唯一レオだけが男です。
誰もが保身のために友人や家族を売る時代に、レオは妻を告発しません(あ、罠にはまったんですけどね)。それで自分がどうなるか、分かっていてもです。(微妙な夫婦関係の)妻と一緒に殺されてもいいと、腹をくくるんです!
男トム・ハーディ、マックスの時より格好良かった!
レオの奥さん役に、ノオミ・ラパス。枯れた美しさがある。初めて良い女優さんだと思いました。
脇にゲーリー・オールドマン、ヴァンサン・カッセル、ファレス・ファレス(特捜部Qから注目しています)
リメイク"ロボコップ"のジョエル・キナマンが、今回はサディスティックで美しいです!
トータル面白かったです。
が、この時代の不気味さと、時代に虚勢された男達の滑稽さは伝わりますが、もうちょい時間をかけて、この異常な世界を描けたら良かったのに。
カットされた部分が多いのかな?ちょっとシーンぶつ切りな印象です。
それとも原作は3部作のようなので、続編があるのでしょうか?トム・ハーディとゲーリー・オールドマンのバディ物なら、観たいですね。
また、製作のリドスコ監督ばりの目まぐるしいカメラワークは、加齢により動体視力の落ちた私には、かなりきつかったです。
ダニエル・エスピノーサ監督作品を始めて観たのですが、もともとこんな撮りかたをする方なんでしょうか?