「今を生きる我々へ」真夜中のゆりかご 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
今を生きる我々へ
アカデミー外国語映画賞を受賞した2010年のデンマーク映画『未来を生きる君たちへ』のスサンネ・ビア監督の2014年の作品。
『未来を生きる君たちへ』は正直うろ覚えなのだが、こちらはそうそう忘れ難い。
美しい妻と産まれたばかりの乳児と共に湖畔の家で幸せに暮らす刑事のアンドレアス。
通報を受け、ヤク中カップルの劣悪な育児放棄の場を目の当たりにし、憤りを感じる。
そんな彼にある悲劇が起こり、さらにその悲劇は連鎖していく事に…。
ある朝、愛する我が子が突然死亡。
妻はパニック状態に。
アンドレアスもショックの中現実を受け入れ、してはならない事に手を出す。
ヤク中カップルの一室に忍び入り、死んだ我が子(アレクサンダー)と彼らの乳児(ソーフス)をすり替える。
家に連れ帰るが…、妻は戸惑いを隠せない。
アンドレアスは自分の行いを肯定する。我が子は死に、この乳児もあのヤク中カップルの元に居たらいずれ死ぬ。ならば…。
一方、ヤク中カップルは…
男は激しく狼狽。
が、女は赤ん坊の遺体を見て、我が子ではないと確信する。こんな母親でもやはり母親なのか…?
またムショに戻りたくない男は赤ん坊の遺体を森に埋め、誘拐されたとひと芝居。
嘘だと知ってるアンドレアスは激しく問い詰める。しかし、他人の子を連れ去っといて、どの口が言う!?
ようやくソーフスを育てようと決めた妻。その矢先、橋から身を投げる。
まさかの悲劇。我が子を失い、今度は妻までも…。
ヤク中男が森に埋めたアレクサンダーの遺体が見つかる。
検死の結果、衝撃の事実。
虐待死。
妻は我が子を虐待し、それ故の死亡だったのだ…。
夜泣きなど自分も育児に協力していたとは言え、妻はさらにもっと。その心労に気付いてやれなかった。
知りたくなかった妻の虐待。理想的だと思っていた自分の家庭は知らぬ所で崩壊していた。
子供を育てる事すら出来ないと思っていたヤク中女。我が子は生きていると信じ続け、男が逮捕された今、真っ当な母親に…。
ソーフスにとって何がいいのか。母親の元に戻るべきか、施設に預けるべきか。
アンドレアスのした事は勿論、罪。…が、少なからず分からんでもない。時に血の繋がりより他人の温もりの方が…。
何が善で、何が悪か。見方、立場によって、それは曖昧。
しかし、ラストの“再会”に心が救われた。