「祈りの木。」おかあさんの木 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
祈りの木。
いつから国語の教科書に載っていたのかは分からないが、
この話は私ですら微かに覚えている…戦地へ送り出した
子供の無事を祈って一本一本、桐の木を植えて帰りを待つ
母親の話だ。あらすじだけで泣けてくるのは、その結果が
分かるからで、今でこそ観ておいた方がいい作品だと思う。
なぜ当時の日本は勝つと信じて息子を国に捧げていたのか。
無知であることの恐ろしさと、大切な命を奪われることの
理不尽は今作の出来云々に関わらず、親なら誰しもである。
まさか命を失うとは思わずに、万歳万歳と息子を送り出す
母親の境地。戦死したら軍神扱いされ恨むこともできない。
軍神の母として取材を受ける皮肉もよく描けている。
鈴木京香が演じるおかあさん・ミツは、文字すら読めない
無学な女だったが、7人もの息子を早世した夫の分も育て
あげた立派な日本のおかあさんである。一人は子供のない
姉夫婦の養子として捧げるも実の母だと知っていた息子は
出征前に心の中で「おかあさん」といいながら挨拶に訪れる。
せめて一人だけでもと祈るが、日に日に劣勢となる日本軍
の様子や手紙が滞る場面などすでに前半から嗚咽が漏れる。
桐の木を植えては、一郎、二郎、と話しかけるミツの方言
が優しく響く場面や、語り部となるサユリの五郎への想い
などホッとできるエピソードもあるが、戦争はやはり酷い。
一家の男手を全て召集するなんて、日本にはプライベート
ライアン的な措置(あれも凄かった)はないのかよと思うの
だったが、あった。ちゃんとそれを指示する上官もいたが、
戦況や本人の意志もあったのか、終に敗戦まで強制帰還は
されない。おかあさんは桐の木となった息子達を最後まで
待ち続けるが…。時代が違ったらミツは大勢の孫に囲まれ、
幸せな老後を送れたに違いないのに…と思うほど辛くなる。
(あの頃の庶民の祈りが活かされてると思えない、今の日本)