「マイヤーズブランドをあなたにも一着」マイ・インターン ユキト@アマミヤさんの映画レビュー(感想・評価)
マイヤーズブランドをあなたにも一着
ナンシー・マイヤーズ監督作品であります。もうこの人、一つのブランドを確立してますね。
ヒューマンドラマ、家族、そして何よりも「恋愛もの」を描かせたら、極上の作品を生み出します。僕、個人としては「ホリディ」が大のお気に入り。泣き虫な男性にはオススメの逸品です。
さて、本作の主人公、ジュールズ(アン・ハサウェイ)
ファッション業界で注目を浴びる、今が旬の女性社長。彼女には、仕事を理解してくれている佳き夫がいて、愛する娘もいます。
最初は彼女ひとりが、自宅のキッチンで始めたネット通販。
しかし彼女には、特別な才能がありました。
これからヒットするであろう、オシャレな服を見極め、適切な批評をし、コーディネートする、という彼女オリジナルの能力です。
彼女が運営するサイトは口コミで広がり、女性たちの心をわしづかみ!
あれよあれよと言う間に、ジュールズが始めた会社は、200人以上の従業員を抱える巨大企業に成長。
新しいことにトライし続ける企業風土もあって、この度「インターン制度」を導入しました。
そこで採用した”新人”インターンは、なんと御歳70歳の男性。彼と、ファッションリーダーである、若き女性社長との、ちょっとギクシャクしたやり取りを、ユーモア溢れるタッチで描いてゆきます。
いつも思うんですが、本作に限らず、ナンシー・マイヤーズ監督のタッチは「品がよろしい」の一言に尽きると思います。
映画作品の中に、不必要で過剰な「エロ」とか「グロ」を、持ち込まないのです。本作のストーリーの流れでも、実はもっと「刺激的」な表現にできるシーンがいくつもあるんです。でも、あえて、そういう過剰演出は一切やらないんですね。
本作では、女性社長を演じる、アン・ハサウェイのファッションに注目です。カジュアルだけど、上質さを感じる素材の良さとデザイン。更に、彼女の「着こなし」をより引き立たせるのが、高齢者インターン、ベン(ロバート・デ・ニーロ)の「大人のおしゃれ」なんですね。
まさに、寸分の隙もありません。
ビシッとキメた、ネクタイとスーツのコーディネート。トラッドで申し分なし。こうなると、映画の中に出てくる小物たちも気になるところ。ベンが持っているアタッシュケースや、手帳、筆記具の類に至るまで、かなりこだわり抜いたものを使ってます。しかも、それらにあえて執着を見せないそぶりを見せるのが、ベンの「オ・ト・ナ」の所作なんですね。
いい感じに年齢とキャリアを重ねてきた、ステキな高齢者の見本のような人物。これはやはり、ロバート・デ・ニーロを起用した、キャスティングの勝利でしょうね。
さて、”新人”のベンは、数十歳年下の”ボス”であるジュールズに、実に献身的に仕えます。
その姿は、どこか中世の騎士道のような雰囲気さえあります。
日本には、そのむかし「滅私奉公」という言葉がありました。
ベンはそんな立場を、むしろ楽しんでいる雰囲気さえあるのです。
さて、ジュールズが作った会社は急成長しました。
急成長した会社にありがちなこと。経営体制が整わないのです。
そこで、外部からCEOを招いて、経営を健全化させよう、という動きになります。その時、CEO候補と社長であるジュールズが面談をする運びになるのです。
ベンは社長付きの運転手を任されています。
社長ジュールズは面接のため、ビルが運転する車から降り立ちます。
目の前には、見上げるようにそびえ立つ巨大ビル。
この巨大ビルの一室にCEO候補者のオフィスがある。
もしかすると、今日の相手は、海千山千のやり手経営者で、いくつも会社を買っては売り抜けて、大儲けをしているかもしれない。まあ、アメリカの企業社会ではよくある話。(プリティ・ウーマンのリチャード・ギアが演じた青年実業家がまさにこのタイプでしたね)
そんな相手と今から面談です。彼女はジャケットの襟をただし、気合を入れて巨大ビルに立ち向かいます。
ーカットー
次のシーンは巨大ビルのエントランスから出てくるジュールズ。
ほとんど虚脱状態。倒れこむように、お抱え運転手ベンが待つ車の中へ。
彼女が放つ一言。
「あんな奴ダメ」
これで、この話はボツ。
あの巨大ビルの一室でいかなる会話がなされたのか? それには一切触れない。ジュールズのリアクションだけで、どんな人物と会ったのか? どんな会話があったのか?を観客に想像させる。
このシーン、金と欲にまみれたCEO狙いの男どもを「エグい」感じで描くこともできる訳です。しかし、そういう風には描かないんです。まあ、ここらあたりが、ナンシー・マイヤーズブランドのストーリー展開なんですな。物語の中に、圧倒的な悪役というものが、ほぼ出てこないんですね。
多忙を極める中、会社経営と家庭を両立させようと、懸命に働く一人の女性、ジュールズの姿。それをアン・ハサウェイという魅力的な女優が演じることによって、本作は多くの女性たちの共感を得るだろうと思います。
蛇足ながら、定年でリタイアした人物を、日本の世の中や、企業、社会は、なぜもっと活用しないのでしょうか?
本作でのベンは、リタイアしたあと、生活に困らないほどの資産を持ち、悠々自適の生活を送っていました。ただ、毎日の太極拳トレーニングや、その他の文化教室、そして、年中行事のようにある「お葬式」への参列。
「ああ、また、仲間が先に逝ったか……」
そんなつぶやきを漏らす毎日。ベンにはそれが嫌だったのです。
自分もまだ何か、世の中の役に立てるかもしれない。
「Facebook」とか「USB接続」なんてハイテク関連の単語はさっぱりわからない。でもまだ、誰かのために役立てるかもしれない。なにより、世の中から、まだ自分は必要とされていたい……。
日本でも、もちろんこういった高齢者は、それこそゴマンといることでしょう。
実は高齢者というのは、様々な体験、危機をくぐり抜け、人生の経験値の高いスペシャリストであることも多いのです。
本作でベンは、社長の運転手役になりますが、彼はもともと営業畑の出身。
実は敏腕営業マンを見分ける一つのポイントがあります。
「道に詳しい」ということです。
僕もかつて20年以上営業畑を歩んできました。
ひときわ抜きん出た営業マンに共通する、ある特徴を発見しました。
それは、彼らは車を運転していて、決して「道に迷わない」のです。
ナンシー・マイヤーズ監督が、この「道に迷わない」ベンを描いたのを見て、僕は一人膝を打って納得しておりました。
「やっぱりちゃんと調べてあるんだ」
マイヤーズ監督ぐらいになれば、敏腕営業マンの特徴を見逃すわけはないのです。
当初は高齢者であるベンと、どう付き合っていいか、戸惑っていたジュールズですが、やがて彼女にとって、そして会社にとって、ベンはかけがえのない人になってゆきます。
人と企業、会社組織というものの関係。
本作は、ほとんど理想的すぎて、おとぎ話のように思われるかもしれません。しかし、映画を仕立てるための「布地」が「厳しい現実」という名の「素材」であったとしても、それをもとに「着心地の良い作品」をつくる自由があっていいはずです。ナンシー・マイヤーズ、ブランド映画は、どれも女性とって着心地、抜群の逸品でしょうね。