「三層」アクトレス 女たちの舞台 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
三層
ジュリエット・ビノシュ主演。
ビノシュが「女優」を演じた『コード・アンノウン』と『マリー もうひとりのマリア』は、有無を言わせぬ神演技でホント凄かったなあと個人的には思う。それらほどの迫力はないものの、本作でも女優を演じるビノシュを堪能。大変楽しかった。
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中年女優がある舞台にキャスティングされるが、主役は別の若い女優だった、というストーリー。
舞台戯曲の登場人物「ヘレナ」と、それを演じる中年女優「マリア」と、マリアを演じる「ビノシュ」。
この三層構造が、面白い。ヘレナとマリアの境目が溶けていく感じがいい。
そして、文芸からブロックバスターまでオファーが来る女優マリアと、同じく単館系からゴジラまで幅広いビノシュ自身。なにやら重なる部分も多い。
共演の若手女優、『キックアス』クロエ・モレッツと『トワイライト』クリステン・スチュワート。超エンタメ映画で名を売った彼女らが、アサイヤス監督のカンヌ出品作に出る。これも、劇中のアクション映画で鳴らした若手女優が地味な舞台に挑戦という設定と重なる部分がある。
あえて重ねた設定・キャスティングであるが、違う点も。
劇中の中年女優は、若手に主役を奪われてキーッ、くやしい!となる訳だが。
現実のビノシュは、新進気鋭のクロエ、クリステンを従えて、まごうことなき主役を張っている。
現実の中年女はしぶとい。(というか、ビノシュがしぶとい。)
若手に攻めの演技をさせて、それを受けて立つ余裕。
クリステンがもの凄く良かった(素晴らしかった!)が、まだまだビノシュまでの道は遠い。
観終った感想としては、中年の悲哀というよりは、若手頑張れ!というエールの方が個人的には強く残った。
重鎮演出家や先輩女優のエピソードなど、死の匂いが所々漂う映画だったが、死に足をかけた中年女優のしぶとさが漂う映画でもあった。
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追記1:クロエも良かった。クロエは、ベタな役ドコロをわかりやすく熱演。自分が求められているものを賢く把握出来る女優さんなんだなあと思った。あっぱれ。
追記2:女優だけでなく、雲(風景)も良かった。この映画、主役は雲だろう。
追記3:上記のような事を知人に言ったら、アサイヤスだからビノシュだから日本で公開が決まった訳ではなく、クロエだからクリステンだから公開出来たんでしょと、シビアな反応だった。そうか、世間はBBAに冷たいなあ。