「ラストを含め、価値観が問われる。」ヴィオレット ある作家の肖像 cmaさんの映画レビュー(感想・評価)
ラストを含め、価値観が問われる。
予告から、感情のぶつかり、悲劇の幕切れを予想したが、本編はかなり異なる感触だった。特に、南仏に流れ新作に取り組む後半。陽光溢れる自然に埋もれるようにして、ヴィオレットが内省的になり、自身の内側を掘り下げていく。ふつふつと水面下でたぎる感情のほとばしりが、何ともスリリングだった。
ラストはハッピーエンドか否かは、観る人によって異なるように思う。そもそも、私には、ヴィオレットの方がボーボヴァールより美しく思えた。確かにヴィオレットはぽっちゃりとして野暮ったいけれど、生き生きとして魅力的。対するボーボヴァールは痩身だけれど、知的というより貧相な印象を受けるところもあった。ヴィオレット役のエマニュエル・ドヴォスは、付け鼻で醜さを表したらしいが、日本人の私にはピンとこず…。本国フランスならば違うのか? 美醜の基準は、国や文化はもちろん、個々人でも差がある。二人の対比の捉え方は、観る人により異なりそうだ。(個人的には、二人の女優さんが役をひっくり返した方がよかったかも?と思った。少なくとも、ボーボヴァール役は、もう少し迫力や魅力が欲しい。)
果たしてヴィオレットは、ボーボヴァールのおかげで成功を掴んだのか、はたまた、彼女の論の実例として利用されたのか。書くこととの出会いはともかく、ボーボヴァールの出会いは、ヴィオレットにとって幸せだったのだろうか? 観終えた今も、ぐるぐると考えている。
また、このような題材が取り上げられ、描かれるのは、女性の幸せの捉え方や歳の重ね方への価値観が多様化し、答えが見出せずにいる「今」らしいなとも思った。家庭から出て、社会的名声を得る。そんな男性的成功は、女性の絶対的成功とは言えない。どこか満たされず、それならばと「次」を模索し続けるよう自他にじわじわと迫られる。そんな現代の若くない女性(いわゆるアラサー、アラフォーと呼ばれる人たち…自分含め。)の姿が、彼女に重なった。
また、母との愛憎合い混じる関係も一筋縄でいかず、余韻が残る。エンドクレジットでヴィオレット方が先に亡くなったと知り、子に先に逝かれた母へ思いをはせずにいられなかった。予告の印象にとらわれず、まずは観てほしい作品だ。