劇場公開日 2015年4月18日

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「声なき声は届かなかった」ザ・トライブ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

1.5声なき声は届かなかった

2020年1月30日
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鑑賞方法:DVD/BD

悲しい

怖い

難しい

映画の表現方法は様々。
中でもこれほど異色のものは無い。
登場人物たちは聾唖者故、やり取りは全て手話。
が、状況説明や字幕は表示されない。
決してサイレント映画ではない。周囲の音はある。
ただ台詞が無いだけ。
何とも実験的と言うか意欲的と言うか、果たして話が伝わるか心配になるが、これが意外と伝わる。

おそらく舞台は製作国のウクライナ。
とある聾唖寄宿学校に一人の少年が転入して来る。
一見穏やかそうに見えるが、その内部では不良たち(族=トライブ)が幅を利かせていた。
転入早々目を付けられるも、彼らの下っ端として仲間入りに。
売春などの犯罪に手を染め、やがて売春少女と関係を持った事から…。

登場人物たちは役者ではなく、実際の聾唖者たち。迫真の演技を披露。
また、これがデビュー作となるミロスラブ・スラボシュピツキー監督の演出は終始、ヒリヒリとした衝撃と緊迫感漲る。ただ者ではない。

確かに一本の作品としては独創的で才気溢れ、素晴らしいのであろう。
が、自分はどうしても好きになれなかった。

まず、手話オンリーというのがどうも不自然。
聾唖者同士だったら何ら不自然さは無いが、時折健常者も交じり、それで一言二言一切発しないというのも…。
ひょっとしてこの表現には、もし私たちの世界から言葉を配したら…という意味が込められているのかもしれないが、リアリティーの中にアンバランスな“創作”を感じてしまった。

しかしそれら以上にゲンナリさせられたのが、その生々しい描写の数々。
不条理で理不尽な状況下、痛々しい暴力、AV並みのSEXシーンもさることながら、あの中絶シーンはまともに見ていられなかった。
聾唖者たちはただでさえハンデを背負っている。これが愚かにも人生を浪費する健常者の若者たちだったら自業自得だが、何故聾唖者たちにさらに過酷な運命を強いる?
社会的マイノリティーの声なき声を訴えているように見えて、実はこの作品こそ差別や偏見を禁じ得なかった。

もう一度。作品としては素晴らしいのであろう。
が、個人的には疑問や不快や憤りすら感じ、二度は見たくない。

近大