「クリスチャンの至高の幸福〜和製フランダースの犬〜」母と暮せば のさんの映画レビュー(感想・評価)
クリスチャンの至高の幸福〜和製フランダースの犬〜
吉永小百合可愛かった。
ラストに批判的な人は多いと思う。死が救いというのはあまりにも悲惨ではと。
キリスト教においては神の御元に召されることが何よりの幸福。フランダースの犬なんかがそうだ。辛い毎日に耐えたネロの唯一の楽しみである特技の絵でも、ズルされて負けてしまい、最後は雪の降る中、犬とふたりぼっち寒さで死んでしまう。どこに救いがあるのか?と子供ながらに思ったものだ。可哀想でストーリー自体好きでなかった。
しかし違ったのだ。フランダースの犬のラストは、最後のシーンに必ず可愛らしい天使たちが登場する。この世の救い、絶対の愛である、神の使いが空からお迎えに来るのだ。
小学生の頃は何も感がえずに学級文庫にあったフランダースの犬の絵本を開く度、その裸の天使を友人とニヤニヤしながら見ていたものだが……
とにかくあの雪の中のラストは救いのエンドなのである。日本人には、ましてフランダースの犬を初めて読む多くの子供たちには、分かりにいだろう。
閑話休題、こちらの映画のラスト付近、ストーリーはいいのだが演出がいただけない。具体的に言えば母の亡くなるシーンから。どうしてしまったのだろうか?あまりの稚拙さ・チープさに驚いた観客も多かろう。
唯一ラスト付近で心に残って離れないのは、息子が母親に死を宣告したシーン、母親が驚いた後、涙ながらに
「じゃあ、もうこれからは未来永劫、(息子)と一緒にいられるの?
嬉しい、私嬉しい。」
と拳を握り締め声を震わせた吉永小百合の演技。
その前のもう自分は一人ぼっちなんだから、これからは会えなくなるなんて言わないでくれ、お願い、と懇願するところから含め、なんといじらしく憐れなんだろうと、悲しくなってしまった。思い出すだけで涙を禁じ得ない。
そして良かったねと心から思った。
戦争を経験した人間の心を、本当の意味で救済し、幸せにする方法は、もしかしたらたった一つしかないのかもしれない。
それはとても悲しいけど。
戦争が一人一人の人間の心に残すものはあまりにも大きく重く、それなのに消え失せることは永遠にないのだ。その暗く重い心を自分一人で永遠に背負い続けて毎日呼吸を続けなければならない。その先の人生、どんなに楽しいこと、幸せなことがあったとしても、その重みを捨て去ることは永遠にできないだろう。
それこそ、死をもってして以外には。
あ、あと 告別式の執り行われる教会のラストシーン、花嫁と父親が別れに向かい歩くバージンロードを、二人は永劫の世界へ寄り添って逆行してゆくという暗喩…少しやり過ぎだったな。やっぱりラスト付近は演出がちょっとおかしい。