「二宮氏の演技力に脱帽。父と暮せばファンなら一度は」母と暮せば 餡子さんの映画レビュー(感想・評価)
二宮氏の演技力に脱帽。父と暮せばファンなら一度は
井上ひさし氏の父と暮せばの舞台を見たことがあり、原作も知っているので大変興味を持ち、リアルな戦争を生き抜いた祖母たちを連れて見てきました
吉永小百合さんが出ているので間違いないとは思いましたが、不安だったのは二宮和也氏
アイドルでしょう?演技はどうなのだろう…と半分恐恐と見に行きましたら、全く問題でなかった
まずはストーリーに触れます
父と暮せばでは原爆により死んだお父さんと遺された娘、でしたが今作品では逆
原爆により死んだのは息子で、遺されたのはお母さん
冒頭の原子爆弾が落とされたシーンは監督も力を入れたところらしく、インク瓶が一瞬で溶け、凄まじい爆音と共に映像が乱れたところは思わず息を飲みました
隣で見ていた祖母はそれ以前のシーンの静けさからいきなり訪れた爆音により驚いて悲鳴を上げたくらいです
それ以前のシーンは白黒で、いわゆる過去の回想
そこからは色が付き、今現在のストーリーが始まります
原爆投下から3年後の夏、復興が始まったあたりからスタートした物語
息子を亡くした母と、息子の婚約者だった娘は支え合い生きてきましたが、娘の幸せを願い、そして未来へ歩まなければならないという遺された者の役目のために母は娘へもうあの子のことは忘れなさいと助言します
そのうちに幽霊となって母の元へ現れた息子
息子は今でも娘を愛していますが自分はもう死んだ身
葛藤しましたがついに娘の幸せを願い身を引きます
息子と母のわずかな心の邂逅は冬まで続きましたが、娘が職場の同僚との婚約を決め母に報告したその日の夜
大晦日の夜に母は息子に手を引かれ旅立ちます
ざっとあらすじはこんな感じです
簡単に終わり方を言うなら、典型的メリーバッドエンド
母は愛する息子ともう離れることはないと喜びに涙しますが、それは母の死を意味します
母を愛して戦後の混乱の中でなんとか物資を闇市から捌いてくれていた上海のおじさんや、隣のおばさん、息子の婚約者だった娘など、遺された者もたくさんいますが、それでも母は幸せそうに微笑み、息子と手を繋いであの世の門を開きます
エンドロールが流れると同時に、当然のように私は涙していました
祖母も泣いていました
思わず拍手しそうになる程、久しぶりに感動した…!と感じた映画でした
まず、私は戦争を知りません
戦後の時代なんてテレビでしか見たことがないような世代です
それでも、素直に心に落ちてきた
リアルにその時代を生き抜いた祖母はあぁ、昔を思い出した、懐かしいとしきりに言っていましたので、おそらく背景は当時の日本そのものなのでしょう
その上で、話の大部分は戦争ではなく日常劇なんです
これは父と暮せばでもそうでしたが、日常の会話、なにげない暮らしの日々が主なんです
だからこそ昭和を知らない私でもすんなり理解できたのでしょう
日常劇というのは見ている方は楽ですが、構成する側は非常に難しいというのは身を持って経験しています
日常会話なんて、普通に話してるだけなんだから本来おもしろくもなんともありません
それを見る者を引き込ませる魅力を持って演じなければならない
そのためには練られた台詞、完璧なカメラワーク、そしてキャストの演技力が試されます
そこで、心配していた二宮氏の演技です
まずそもそもこの舞台は長崎で、台詞は全編長崎弁
ただでさえ難しい日常劇が、その上長崎の方言、訛りの台詞
それでも二宮氏は完璧に演じきりました
志半ばに命を奪われた青年の、精神的未熟さ、悲哀、苦悩、最愛の母と会える喜び
所詮アイドルだと思っていましたが、この映画を見て彼へ対する評価が変わりました
本当に上手かった
私は子を持ったことはありませんが、それでもお母さんへ感情移入してしまい、二宮氏演じる息子が愛おしいとさえ思いました
ラストにあなたはもうこちら側の人だと、一節だけ標準語で言う、母をあの世へ連れていくシーンがありますが、その時にはもう感情が爆発しそうでした
母が可哀想で可哀想で、それでもあの子と共にいられると泣いて喜ぶ姿が非道く納得して、幸せそうに手を取り合う母と息子
もう滂沱の涙を流してのめり込みました
やはりお二人の迫真の演技があってこそ、心から入り込めたのだと思います
吉永さんの演技力については言うまでもありませんね
個人的な意見ですが、あんなに美しいおばあさんは日本で彼女ぐらいではないでしょうか
結論として、父と暮せばを知っている人はぜひご覧になってはいかがでしょうか
山田洋次監督が井上ひさし氏の意思を継いで続けた原爆三部作の二作目である今作
父と暮せばを踏襲した日常劇
原作同様、一見穏やかで、でも確実に寂しさが去来する、胸が詰まる作品です
私が感動屋だというのも要因としてあると思いますが、それでもやはり素直に心を打つものがあります
所詮アイドルの副業、話題作りの配役、と思っている方は、一度固定観念を捨てて見てみてください
息子の若さ故の未熟さ、幼さ、拙さが見事に二宮氏により描き出され、よりすんなりと受け入れられるでしょう
ただ一つだけ複雑だったのは、地震や津波なら天災だが戦争はそうではない、という台詞です
東日本大震災で被災した私は、少しなんとも言えない気持ちになりました
最も、そのどちらも経験した祖母が絶賛した内容ですから、許容範囲かもしれませんが