「ファンタジーは時にリアルを超える・・」母と暮せば himariさんの映画レビュー(感想・評価)
ファンタジーは時にリアルを超える・・
ファンタジーは時にリアルを超えるというけれど
この映画もそういう作品だと思いました。
特に私自身が描かれている親子の年とほぼ同じせいで
重ね合わせる部分が多かったせいかもしれません。
(親子の雰囲気が甘いのも、
自分を振り返れば、や、こんなもんかなって;;)
人生も後半戦に入ってくると学校時代の同級生や
その連れ合いが亡くなったり、
親が亡くなったりという話をちらちら耳にします。
例えペットでも、大事なものを亡くした人の喪失感は
その人のことを想うこちら側にも伝わってきます。
戦争の悲惨さを強調しないこの映画に
観る側は辛さや怖さを伴うことなくすっと入っていけます。
当時の様子を細かく再現していても
昔のフィルムに残っているような、時代の持つ硬い雰囲気は
あまり感じられません。
なにより親子のひょうひょうとした会話を始め
脇役の面白さあふれる演技が
親しみやすさを倍増させます。
(これは監督の意図なのか、役者が上手いのか
その両方だと思います。)
親子の会話を中心にお話が進んでいくのですが
そのどこを切り取っても
誰かが何かを亡くしている・・・
まったく無傷の人なんていない。
人々は普通に暮らしているように見えても
心の中には暗い喪失感を抱えている。
原因は戦争であり、原爆であり。
その中で描かれる人間模様。
自分の寂しさを後回しにして、町子の幸せを願う母と息子。
恋人と友達を亡くし、自分が幸せになることを肯定できない町子。
自身も戦争で片足を亡くし、家族も亡くした黒田。
前を向こうとしても、自分の心に足を取られているような。
母も決して聖人君子ではない。
自分に好意を寄せる人から闇物資を安く手にいれたり
「何で死んだのは自分の子供で、あの子だけが幸せになるの?」
という、理性を超えた母親の本能というべき言葉も発します。
それでもすべては浩二のセリフ、
「町子が幸せになってほしいっていうのは、実はぼくと一緒に原爆で死んだ何万人もの人たちの願いなんだ」
という言葉に救われる、と思う。
母の想いも、あの最期で救われてると思う。
音楽も映画に合っていて素敵でした。
ラストの合唱は評価が分かれるところ?
いろんな年代の人が一緒に歌っていて、私は良いと思いました。
この映画を作っている時現場の人は辛かったんじゃないだろうか?
二度と戦争をしてはいけない、という監督のメッセージは
役者さんとスタッフの熱意とともにしっかり届いていると思いました。