劇場公開日 2015年9月12日

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「ホウ・シャオシェン流武侠映画」黒衣の刺客 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ホウ・シャオシェン流武侠映画

2025年5月3日
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鑑賞方法:映画館

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いかにもホウ・シャオシェンという映画だった。たとえ武侠映画といえども、ホウ・シャオシェンはウォン・カーウァイと同じく独特の作風がずっと変わらない監督なので、おそらくカーウァイの『楽園の瑕』と同じようにいつもの作風のままの武侠映画なのだろうと思っていたが、まさにその通りだった。よって観る人を選ぶ映画だということは間違いない。ホウ・シャオシェンの映画は、1シーン1ショットの長回しで音楽はなく台詞も少ない上に俳優の話し声が小さい静謐な印象の映画で、観る側にある種の集中力を要求するタイプの映画なので他人には無条件でオススメはしづらい。あえて説明を排した行間を読ませる映画とでも表現すべきか。でも僕はそこにハマったんだよな。この映画も「うんうん、いかにもホウ・シャオシェンだよなあ」となんだか懐かしくさえ感じてしまった。

主演のスー・チー、相手役のチャン・チェンをはじめ、役者陣もみな一流の仕事ぶり。スー・チーは若いころ十八番にしてたマリリン・モンロー的役柄から、しっとりとした大人の女性の役柄へ本当に上手く移行したなあ。もちろん彼女の実力あってこそだが、『ミレニアム・マンボ』『百年恋歌』と新たなホウ・シャオシェンのミューズとなったことが、双方にとって非常にいい方向に作用したと言えるのかも。

黒澤✕小津とでも言うべき雄大な自然の風景映像や自然音なども素晴らしい。大満足の出来だった。

ちなみに忽那汐里の出ているシーンは日本公開版にしかないシーンだが、ホウ・シャオシェンによると編集の女の子が「日本人の青年(妻夫木聡)に奥さんがいたんじゃインニャン(スー・チー)がかわいそう」としきりに言うのでカットしたとのことだが、ホウ・シャオシェンはそのエピソードをよほど捨てがたかったのか日本公開版でだけ戻したとのこと。よって日本公開版こそがディレクターズカット完全版ということになる。

バラージ
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