「進撃せよ日本特撮……技術!!」進撃の巨人 ATTACK ON TITAN エンド オブ ザ ワールド 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
進撃せよ日本特撮……技術!!
原作改変がファンの逆鱗に触れたりスタッフのなんだか大人げない発言が流布したり、
原作未読&ネットに疎い自分からすると本編以外の所で攻撃されてる感がある『進撃の巨人』実写版。
前編をかなーり楽しんだ自分は「まあ映画として楽しめればいいんじゃね」くらいの気構えで後編を鑑賞。
……したんですけど。うん、はい。
最初に結論から書くと、後編は乗り切れなかった。前編の勢いを維持できずに失速。
スコアで言うなら前編★4.25、後編★3.25、といった感じかねえ。
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前編はおぞましい巨人の襲撃シーンや主人公エレンの変身&大逆襲など、
映像的にも感情的にもボルテージの高いシーンが多く、薄めの人間描写等はあまり気にならなかった。
だが後編に来て、この“薄めの人間描写”という部分が悪い方向に効いてくる。
後編でそれまで付き添っていた仲間が次々死んでいくのに、驚くほどこちらの感情が動かないのだ。
帰りを待ってる弟たちがいる……とか主人公をライバル視してる……とか、
いちおうキャラの背景は描かれている筈なのに。
いちばん時間を割いて描かれてきた主人公エレンやミカサの葛藤さえもイマイチ心に響かなかったのは大いに痛い。
これは演技よりはセリフ自体が大きな理由かと思う。
状況説明のセリフについてはスラスラ出てくるが、
これがこと感情を伝えるセリフになると途端に拙(つたな)くなる。
食いしん坊ガールとミカサの会話やら、「心の壁は?」という謎発言やら、
概念的というか、肉抜きし過ぎて訳の分からない骨だけ残ったようなセリフばかり。
そもそも月並みな苦悩を訴えるだけではキャラクターは物語に配置された記号に過ぎない訳で、
彼らが観客と同じ血肉の通った人間に思えるような、もっと細やかな表現が必要だったんだろう。
なかでも違和感を感じたのは、シキシマ隊長。
前編ではあの妙に艶っぽいキャラを気に入ってたのだが、後編で一気に「何なんこの人」となる。
巨人狩りのエキスパートで真相を知る人物でクーデターの首謀者で巨人化もできて恐らくはエレンの兄貴で……
……ひとりでどんだけ設定背負ってんのアンタ。
爆弾で現体制をぶっ潰すという陰謀をなぜか後からエレンに聞かせて反発されたり、
最後の決着もよく分からない内にいきなり心変わりした彼がつけちゃったり、
行動がいちいち不安定過ぎ。
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はい、人間描写については以上。
次は物語に関する違和感。
物語の真相は簡単にまとめると以下のようなもの。
『巨人の襲撃は、巨人化を自ら制御できる一部の人間を利用して政府が仕組んだもの。
巨人への恐怖で壁外への憧れを抑圧する事で、民を統治しやすくする事が目的だった』
なるほど、OK、概ね了解。だが疑問がある。
國村隼演じる“士官”とかシキシマ隊長とか、今までどうやって巨人から人間に戻ってたの?
長時間巨人になると大脳皮質が同化して――とか何とかピエール瀧が話してた気がするが、
巨人化できる別人を利用するならまだしも、本人が巨人化しちゃったら誰が止めるん?
そもそも巨人化する人間は危険視されてるのに、二人ともよくあれだけの地位に就けたもの。
シキシマがとんでもない反乱分子で、おまけに壁外調査の隊員たちの死を
全員偽装してた事まで見抜けなかったなんて、政府の警戒体制もザル過ぎだし。
あれ、そういや草薙剛も何やってたんだっけ? 巨人化抑制? 巨人化促進?
説明不足なシナリオにも納得いかないが、その他細かな描写もおかしい。
騒ぐと巨人が集まる!って前編であれだけ言ってたのに今回は真っ昼間にトラックで
ガタゴト走るわ「うぬぅぁあああ!」と葛藤&絶叫するわ爆破するわの大騒ぎ。
邦画でよくある「なんで早よ撃たんの?」というシーンも3回くらい登場するし。
前編ではそんなヌルいシーンはちゃんと避けて作ってたと思うのだが、一体どうした。
後編は色々とザツな部分が目立ちすぎる。
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はい、ここまでボロクソ書いてますが、判定3.0は僕の中では「まあまあ」の意味である。
ここから3つ褒める。
一番の救いはやはり映像面だ。
初見ほどのインパクトは無いし、巨人対巨人の格闘戦も他の特撮と比較してチープに思えたが、
(巨人と小さな人間等の対比はスケール感が出ているが、
あのシーンは特撮ヒーローものの殴り合いの延長みたいに見えてしまった)
それでも映像的なテンションは相変わらずムチャクチャに高い。
ドラマ面の不満は多かれど、怒涛の映像にグイグイ引っ張られ、最後まで楽しんで観ることができた。
なかでもクライマックスの画作りについては素晴らしいの一言だ。
ビルよりデカい大型巨人に対して、ナマミの人間が戦いを挑むシーンの圧倒的なスケール感!
空に飛び上がった人間の肩越しに、巨人の胸から頭がめいっぱいにスクリーンを支配するあの画!!
背筋にゾクゾクきましたよ。
2番目。かろうじてだが、テーマ。
今の世界の壁を壊してさらに広い世界へ出るというテーマはありがちではあるがポジティヴだし、
主人公らが壁から解放されるラストは清々しい印象を残していて良い。
『天国の奴隷よりも地獄の自由』……
いやあ、つくづくクサいセリフだと思うけど、いいじゃない。若くてまっすぐで。
(けどエンドロール後のアレは要らん。面倒臭い。)
3番目。石原さとみ。
映像に負けないよう誰もがハイテンションな演技を披露しているワケだが(國村隼さえも!)、
ギークな隊長を演じる彼女は他を圧倒する異次元テンションで後編でも存在感を発揮。
巨人や戦車やRPGでヒャッハーしまくるあのキャラは重くて色々と面倒なこの物語では一種の清涼剤だった。
あんた偉いよ。頑張ってたよ。あたしゃ見直したよ。
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てな訳で、後編でかなり評価を落としたものの、
日本映画が超大作的なスケールという点においても世界に
通用するレベルになってきたと実感できたのは素直に嬉しい。
ハリウッドより遥かに低い予算でここまで出来るというのは、正直スゴい。
あとはこういう超大作でも細やかなドラマが盛り込めれば何よりかね。
(前編の時点でその辺りを冷静に指摘できるロロ・トマシさんとかは流石だと思う)
僕もまあ思い入れのある作品(『ゴジラ』とか『サイレントヒル』とか)を
ムチャクチャに改変されたら怒るとは思うが、この出来で最低点の★0.5なんて付けちゃったら
後々他の映画を評価する時に困ると思いますよ多分。
良い所だってちゃんとあるし、楽しめました。
はい、以上!
<2015.09.19鑑賞>