「いつも胸の中に。」バケモノの子 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
いつも胸の中に。
描かれている街同様にとてもパラレルな世界観が満載の物語。
体験したことはないが、あり得そうな事象にとても惹かれる。
ビルの脇道をクネクネ歩くと入口登場なんてファンタジーだし、
のちに行ったり来たりすることになる九太の運命の分かれ道が
ここにあることが明示され、知力や体力や精神力を成長させて
いく子供たちが必ず通るだろう迷い道になっているのが面白い。
母親が死に独りぼっちになった少年は、ある日バケモノである
熊徹と出逢い(反発しながらも)弟子入りをする。大人のくせに
悪ガキにしか見えない精神性の低い師匠(父親)に辟易しながらも
次第に心を通わせ、互いに独りぼっちだった寂しさを埋めていく。
確かに男の子が子供の頃はスポーツで体力をつけさせようという
親が多い。そして子供の方も親が喜ぶのが自信に繋がりどんどん
技能を開花させたりするものだが、時期がくると子供自身が自分
の方向性と向き合うようになり、続けるか辞めるかのような選択
を勝手に行うようになる(これも自立だよね)。今まで言うことを
聞いていた子供がなんで突然に?なんてワナワナする親を尻目に、
子供はどんどん自分の世界を構築していく。あぁ、もう子供じゃ
ないんだこの子は。という寂しさを味わった体験を、その通りに
表現しているような気がした。子供がどんな風に成長し、その後
親とどんな風に向き合うかを(定石通りに)じっくりと描いている。
SFとカンフーと名作が入り混じった独特の感性と美術が見事で、
アクションもドラマも楽しめるところが相変らず上手いと思った。
声優陣も有名俳優を使っているので冒頭顔がチラチラするのだが、
あとは気にならない。熊徹は顔までソックリで笑えるし、両脇を
固めるリリーや大泉も面白い。特筆は人間界の少女・楓を演じた
広瀬すずで、あまりの声の安定感に驚いた。声優もできるのねー。
(バケモノが単純で人間が複雑という描き分けは妙に説得力あり)