「心の強さとは何か」バケモノの子 コッスーさんの映画レビュー(感想・評価)
心の強さとは何か
私は、この映画で監督が描きたかったものは心の強さだと思う。
楓の台詞にもあるように、バケモノに育てられようとも人間に育てられようとも誰しも劣等感や復讐心、虚栄心といった劇中で言う心の闇を大なり小なり抱えて生きている。
蓮の心の闇は、自分が母親を亡くした後、居場所を奪った親戚や父親への憎悪であったのだろう。しかしながらバケモノの熊徹に弟子入りすることでそのような心の闇に打ち勝つ強さを身につけていく。劇中では楓の御守りが心の闇を抑える鍵となっていたが、意味を自分で見出し心身ともに鍛錬を積んだ蓮だからこそ本当の心の強さを磨けたのではないだろうか。
劇中に出てくる小説「白鯨」では復讐心に囚われたエイハブ船長の心の闇こそがモビーディックという鯨であり、エンドロールに出てくる山月記では李徴のプライドこそが猛虎であると監督は考えたのではないだろうか。このようなかなり高尚なテーマを八百万の神が剣に宿るというような日本古来のバケモノや物の怪というツールで描く発想が素晴らしかったと思う。
対子供には、美しい映像と笑える場面、魅力的なキャラクターで飽きさせない工夫もあり間延びもせずテンポもよかった。ただ他の方のレビューにもあるように、一郎丸の心の闇の深さについて少し掘り下げが少なかったように感じた。彼は人間の親こそいないものの、バケモノの親には愛されていたはずである。無論自らがバケモノではないと気付いた際の悲しみ、疎外感は彼の心を傷付けたに違いないが、その感情があれほどの闇に育つ描写や伏線が少なかった気がする。
熊徹が炎を纏った剣になる映像(なんとなく草薙の剣のようなイメージでとてもかっこよかった!)や鯨が渋谷を泳ぐ描写は圧巻であり、映像とテーマは全体的に申し分ないものだと感じた。伏線の回収も素晴らしかった。
音楽だけは、例えば同監督のオオカミこどもと比較すると、それほど心に残るものがなく、そこについて☆をマイナス1と考えた。何度か見ないと分からない点もありそうなので、是非また見たい。