「緩急自在」あん よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
緩急自在
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河瀨直美がオリジナルシナリオではなく、ドリアン助川の原作をもとに撮った作品。相変わらずカンヌに出品はしているが、パルムドールへの執着を見せるような芸術的映像はなりを潜めている。
むしろここでは肩の力を抜いて、社会の片隅に追いやられている人々の姿を淡々と、優しく描いている。桜の花を愛でる樹木希林と、季節の移ろいに関心のない永瀬正敏が次第に心を通わせていく様子を、緩急のメリハリをつけて観客を笑いと涙に誘い込んで積み重ねる手腕が見事。
これは外部の存在である樹木や永瀬への観客の視線が、単なる哀れみや警戒感が取り払われて、親しみやぬくもりを伴ったものに変容していく作用を生み出す。このことに成功しているからこそ、樹木が亡くなった時の、内田伽羅の自分の本当の祖母(実生活では本当のそぼだが)に対するような哀悼が自然な感情として観客に受け入れられるのだ。
社会・法・国家によって厳然たる差別を受けてきた人々の辛苦の生について思いを深め、いかなる償いも隔離されてきた人々の人生を回復することは不可能であることを知る。我々ができることは、共に働き、共に食べ、共に笑い、共に泣くことだけである。映画はこのことを強く訴えかけている。
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