「まず知ることが大切。」あん aoikaze0513さんの映画レビュー(感想・評価)
まず知ることが大切。
予備知識なく空いた時間タイミングよく入れた映画がこれだったのだけど、開場してから人がどんどん押し寄せ満場に。
なるほど、鑑賞後素晴らしい映画だと認識しました。
あんって人の名前か何も知らないまま観たのだけど、どら焼きの餡のこと。
不思議な現れ方をした徳江さんが魔法のように美味しいあんを作り出す。
主題はものづくり、あんづくりではないのだけれど、小豆があんになっていく過程が詳しく描かれていく脚本は、物やそれを作る人を愛おしんでいるのがひしひしと伝わってくる。
折しも某朝ドラではフランス菓子を作る物語なのに、素材の紹介はおろか、どう作ったかも説明もないし、出来上がったものすらまともに映らないのをもどかしく思っていたところ。
小豆の一粒一粒と語り50年美味しいあんを作り出してきた徳江さんのあん作りの工程は観ていてもちろんそのあんを食べてみたくなるし、自分でも作ってみたくなる思いにさせられる。その工程を観るだけでも素晴らしい河瀬直美監督ならではの脚本・演出だった。
やがて徳江さんは実は元ハンセン病患者だと、知らずに観ていた自分も千太郎と同時に気づくことになる。
訳ありな人生を生きている千太郎は徳江さんを辞めさせずに雇い続けるが、やがてそれも病気の噂が広がりままならなくなる。
千太郎は言葉で解雇を申し渡したわけではないのだが、察しのいい徳江さんからどら焼き屋を離れていく。おたがい相手を想いながらどうにもできない悔しさに打ちひしがれる。
それからの中学生のワカナとの施設への訪問で、徳江さんたちハンセン病患者の差別と偏見を知るが、どうやって立ち向かえばいいのか、観る側にも胸に突き刺さる問題である。
家族からも絶縁され、間違ったらい予防法で長く隔離政策に苦しめられてきた彼女たちの人生は想像もつかない絶望感でいっぱいであったはず。
その重苦しさは具体的には描かれてないけれども、施設を隔離する美しくて静かな自然が対照的で切なくて哀しい。
ハンセン病に限らず、人を差別したり偏見を持つことには誰でも少なからず持っている人間の卑しさなのかもしれない。絶対に自分は差別なんてしてないと言い切れないのが心に痛い。それには正しい知識を得ることが大事だし、知るだけで終わるのではなく啓発、教育も必要。
重くならず、けれど胸に訴えるものは大きく響いてくる映画でした。多くの人に観てもらいたい素晴らしい映画。
オススメです。