日本のいちばん長い日のレビュー・感想・評価
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国体護持とは・・
半藤一利の原作本を読んだ。日本は第二次世界大戦で無条件降伏をしたが、そこに至るまでの政府や軍部の紛糾は想像を絶する。そもそも日本は歴史的には出雲国の古代から神国で、明治維新で王政復古を遂げてからは完全に天皇を中心とした国家だった。天皇は現人神(あらひとがみ)であり、戦後に出来た人間天皇の象徴天皇という概念は、GHQの草案した日本国憲法に寄る。ただ現代の国民の85%は現在の天皇制に納得している。そもそも天皇制という言葉自体が戦後使用されるようになったらしいが、政府と軍部は無条件降伏であっても国体護持にあくまでこだわった。その辺りのことは原作本を読まないと理解出来ない。とにかく日本は戦時中、神風が吹くと国民の誰しもが本気で考え「天皇陛下万歳!」と唱え若者の多くは玉砕していった。国体護持にこだわらない戦争終結という陛下のご聖断は現在の日本国存続に繋がる。戦犯にされなかった昭和天皇と、降伏か本土決戦かに揺れる軍部との軋轢はまさにドラマである。映画だが、無条件降伏を決めた御前会議と陸軍の青年将校らが起こしたクーデター宮城事件を克明に追っている。日本人なら、そして現代社会に生きる人間なら歴史を学ぶ上にも必ず観るべきである。今年も真夏の暑い8月15日の終戦記念日が来ようとしている。日本人として原爆投下やソ連の参戦、無条件降伏そして日本国憲法について深く考えるべきだろう・・2015年の邦画。
歴史を知るということ。
今を生きる私たちは、歴史を学び、語り継いでいかなくてはいけない。
そのためにも観るべき作品かと。
要所要所に、海外の方からの目線を意識しているのかな…と思う部分もあり、日本人として、より多くの方に観て頂けたら素晴らしいと思う。
ただ、大きな隔たりというか、庶民との違いというか、おいてけぼり感というか。何か引っかかりを感じたのも事実。
とにもかくにも豪華なキャスト陣で見応えもありますし、時代の中で翻弄されながらもそれぞれ闘っている方々の気持ちはわかるのだけれど…
個人的には、放送局での戸田恵梨香さんのシーンが一番好き。又、役所広司さん演じる阿南陸軍大臣の奥様(神野三鈴さん)の慎ましさと強さに涙。
旧作もものすごいメンバーなので、機会があれば是非観てみたい。
平和への祈りを込めて。
焦点が定まっていない
日本がポツダム宣言を受諾し、昭和天皇による玉音放送が行われるまでの過程を描いた映画。
原作未読なので比較はできないが、たぶん映画の尺では伝えきれていないのだろう。登場人物が多いので、事前の知識がないとアウトラインしか把握できない。史実として理解はできるが、映画としては今ひとつ。終戦を決断するまでの混乱、阿南の人間性、クーデターの危機…、焦点が定まっていない印象だ。
ただ、主要な俳優陣の演技はよかった。
狂人走不狂人走
映画「日本のいちばん長い日」(原田眞人監督)から。
原作の書籍を先に読んで、驚くほどメモしていたからか、
それとも「映画の予告」を何度も何度も観たからか、
まさか本編を観ていなかったとは・・・自分でも可笑しかった。
さて、いろいろな角度からメモしたが、やはり気になったのは、
阿南陸相の部屋に、さりげなく飾ってあった掛軸。
「狂人走不狂人走」
「狂人が走り出すと、そうでもない人間も走り出す、という意味です」
と、作品の中でも、わざわざ説明している。
鑑賞後ネットで調べると「江戸時代の僧、清巌宗渭の言葉」らしい。
・ひとりの狂人が走ると、普通の人も走り始める。
・ひとりの狂人の情熱と行動で世界が動かされてゆく。
そんな説明を見つけて、なるほどなぁ・・と思った。
今回は、松坂桃李さん演じる「畑中健二」という若い将校が、
この「狂人」として、存在感を示している。
「第二次世界大戦」そのものが、ヒットラーを含めた数人で始まる。
それを考えると、この掛軸の持つ意味こそ、監督が伝えたかったこと、と
私は理解した。
書籍「日本のいちばん長い日(決定版)」
(半藤一利著・文春文庫刊・371頁)の読後メモには、残っていないから、
たぶん、監督独自の視点なのであろう。
昭和天皇や阿南陸相にスポットに当たりがちだが、この日の主役は、
軍事クーデターを起こそうとした「狂人」、若い陸軍将校たちだ。
これが成功していたら、今の日本はどうなっていたのか・・
そんなことを考えながら「狂人走不狂人走」の言葉を眺めたら、
言葉は悪いが「彼らの情熱と行動」を羨ましくも感じてしまった。
これもまた「226事件」と同じく「吉田松陰」の影響か。
客観的な群像か。
太平洋戦争終結を題材にした映画は数あれど、なぜか新鮮味を覚えたこの作品。先日日本アカデミー賞で幾つかの部門に名を連ねていたため、鑑賞してみた。
もっけからテンポの良い“歴史”の展開に苦笑する。不自然なほどにカットされる映像と音声。かなりの撮影をこなしていそうだが激しくぶったぎっている。凄い。しかし、タイトルがタイトルだけに、スポットライトが当てられているのは8/14なのだろうと気を取り直して見続けた。
・・・
結論。
これは戦争終結の局面を徹底的に俯瞰しようとしてしきれなかった作品。
それぞれの人々がそれぞれの思いを胸に馳せながら自分の意思を全うする、というお涙頂戴にはしたくなかったんじゃないか。僕はそう思った。だから役所広司さん身辺になんだかこう、滑舌の悪い人間ドラマを滲ませてしまったのが少し残念だった。
リアリズム、といっても“歴史”をそのように理解すること、ましてや描くことなんて不可能だろうと僕は思っている。しかし、その試みはあるべきで、映画だからこそ見せられる同時多発的な事件を濁すことなく提示し続ける技術は素晴らしいと思った。
最も信頼できる日本人監督
研究の成果であるところの多かろう、細密ゆえに高貴な細密画、のように丹念に描きこまれていて、基本的には基本的な演出、カメラワークを用いているはずなのに、滲み出る、溢れ出る、この監督の個性には、改めて敬服している。
ただし、
切腹までの長い長い時間は、見方によっては喜劇的になってしまう。不満はそこだけ。
作品単体では理解不足に陥る
総合70点 ( ストーリー:70点|キャスト:75点|演出:70点|ビジュアル:70点|音楽:60点 )
終戦に向かう日本の政府の裏事情が描かれていて興味深い。これを観る前には阿南大将はいけいけの強硬派という印象があってあまり好きではなかったのだが、ここでは強硬派をいかに制御して現実的に戦争を終わらせるかという違う側面も描かれていたのでその人物像に興味がわいた。
しかしこの国運を決める緊迫の主題を持った作品で、家庭人の彼に多くの光を当てるのは焦点をかなりぼかしている。彼がこのときに軍人として政治家として何をしたかだけで十分だった。
当時の軍人幹部の暴走に関しては、徹底した神国日本の軍人としての教育を受けていたので、このようなことが起きるのは仕方がない。しかしそのような部分が劇中で説明されていないし、若手軍人の人物像の掘り下げが浅い。
阿南にしてもそれは同様で、彼の本当の目的が何だったのか、もっとはっきりと描いていても良かったかな。ソ連を終戦工作に使おうと思っていた派閥があったとか、もっと終戦工作の内情をしっかりとわかりやすく描いて欲しい。
全体として原作ありき、歴史の知識ありきというのが前提になっているようで、この作品を単体で観ただけでは深い理解には至らない。複雑な事情を描くには2時間でも不足だっただろうか。そして終戦間近の日本政府の舞台裏・阿南の軍人と政治家としての行動・阿南の人格と家庭という三つ、これを無理に詰め込みすぎたことがより散漫になった原因だろう。
追記(2016. 8/14)
『日本のいちばん長い日』(1967年)の原版を観た。こちらのほうが家庭人としての阿南大将を描くことなく、軍人・政治家としての彼のみを描いていて焦点が絞れている。物語としては原版のほうが上。
まあまあ
70年前は、日本もどこかの国と変わらない悪い事をしていたんだなと、あらためて思いました。
昭和天皇を本木雅弘がとても上手く演じきっていて素晴らしいものでした。役所広司、松坂桃李も熱い迫力ある演技を見せていました。
「日本のいちばん長い日」を観て・・
昭和20年8月14日から15日にかけての天皇を中心とした政府の上層部の慌ただしい動きと、宮城事件を克明に原作から映画にした。2.26事件を思わせる青年将校たちの血気盛んな行動。既に日本は広島と長崎に原爆を落とされ、ソ連も対日参戦していた。本土決戦を諦め、ポツダム宣言を受け入れ、無条件降伏することを御前会議で決めていた。映画では、鈴木貫太郎首相、阿南陸軍大臣、昭和天皇が何を延べ、どんな気持ちだったか詳細に語られている。また畑中陸軍少佐を中心とした反乱軍がどのような動きをしたか、玉音放送のレコード盤を巡って、ラジオ放送局と宮内庁がどう対応したか詳細にしている。個人的には役所広司が演じた阿南陸軍大臣の切腹シーンが印象に残った・・
原作を読んだほうがいいと思います。
内容はスピードもあって割と面白くあまり退屈にはならないと思います。
私は原作をかじった程度だったのっですが、多分をもう少ししっかりと読んだほうがわかりやすかったのかもしれません。
ただ、読まなくても退屈しないと思います。
リアルタイムサスペンスのような緊張感。日本の未来を命懸けで築いた人々の物語
原田眞人監督の作品はとにかくテンポが早い。観客に優しく一から十まで物語の背景を教えてなどくれない。
今回の作品も、1967年の岡本喜八版よりも前の時系列から物語が始まるにも関わらず、上映時間は21分も短い。
自分は岡本喜八版やテレビ番組等で話の流れをある程度知っていたから良かったが、要求される知識はやや高め。
あろうことか8/6, 9, 15 が何の日だか分からないという方などは、本作の持つ緊張感を半分も味わえないどころか、
映画の内容すら半分も理解できないかもしれない。
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岡本喜八版もドキュメンタリックで臨場感を感じる作風だったが、今回はその臨場感が更に増していると感じた。
まるでその時代・その場所にカメラを設置して撮り下ろしたかのような、生っぽく荒々しい感覚を覚える瞬間が幾度もあった。
この臨場感、緊張感が最後まで途切れない。
終盤、阿南が自宅に戻ってからの描写がクーデターの緊張感を削いでしまったきらいはあるし、ラストシーンにも
もう少し余韻が欲しかったと思うが、徹頭徹尾サスペンスフルで、なおかつこちらの心を強く動かすドラマもある。
総じて、素晴らしい出来だった。
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敗色濃厚な状況に、もはや本土決戦しか頭にない軍部の過激派たち。
「“神国日本”が負ける筈がないし負けて良い筈がない」という思いが彼らにはあったのだろうし、
このまま降伏し生き延びては、戦死した多くの仲間達に申し訳が立たないという気持ちも強くあったのだろう。
だが、それを女子供含めた全国民に強要する姿勢はおかしい。2度の原爆投下の後でも「国民2000万人を
特攻させれば勝機はまだある」という意見があったなど、僕に言わせれば完全に狂っている。
若手将校達が起こしたクーデターの顛末を描く部分はまるでリアルタイムサスペンスのようなヒリヒリとした緊張感。
松坂桃季演じる畑中が遂に凶行に及んだあの場面では、
「ああいよいよ一線を越えてしまった」と思わず溜め息が漏れた。
松坂桃季のあの目が良い。クーデターが進むに連れ、だんだんと彼の目は、
焦点が周囲のどこにも定まらない、暗く遠く余裕のない目付きになっていく。
役者の名前を出した所で、印象的だった他の役柄2つについても書いておく。
刃先を渡るような役回りを全うした阿南陸軍大臣。
岡本喜八版で阿南という人物とその最期を知った僕は、彼の『暇乞い』の場面辺りからずっと涙を堪えていた。
かつて三船敏郎が演じた阿南は、軍人然とした強硬な態度
の裏に戦争終結や部下への想いが滲む所が妙味だったが、
今回役所広司が演じる阿南は家庭的な面がより強調されている。娘の結婚にまつわるエピソードや次男の戦死に
関するエピソードも掘り下げられ、日本の未来を憂う彼の姿がより人間味ある形で胸に迫る。
末期の酒の席、共に自刃したいと申し出る若い部下の頬を叩く優しさに泣いた。
本木雅弘が演じたのは、これまで日本映画ではっきりとした役柄としては演じられてこなかった昭和天皇。
まるでひとり異なる時間軸を生きるような雰囲気。しなやかで理性的な、不思議な声音が印象的。
ヒメジョオンやサザエで状況を例える知性に、阿南の娘の結婚式について尋ねる場面等の細やかな心遣い。
「いかになろうと国民の生命を守りたい」という言葉にも一片の翳りも無い、慈愛と高潔さに満ちた人物だった。
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日本の未来を、文字通りの命懸けで救おうとした人々。
昭和天皇の国民への想いと、二度に渡る捨て身の“御聖断”。
阿南大臣が繰り広げた、まさしく『綱渡り』な駆け引きの数々。
鈴木首相の、飄々としながらもしたたかで毅然とした舵取り。
自他国を刺激せぬよう一言一句まで議論された玉音放送の原文。
その玉音放送の原盤を最後まで隠し通した宮内省の侍従たち。
クーデターを1分1秒でも遅らせようとして殺された将校。
恐怖に屈せず軍部の放送を固辞した放送局局員たち。
大小異なるこれらの歯車が唯のひとつでも狂っていれば、今の日本はまるで異なる姿になっていたかもしれない。
歴史というのは単に教科書に書かれた文字の羅列ではなく、
小さな個人の行動で積み上げ築き上げられてきたものであると、改めて感じた。
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武器を持たず戦わない事を選んだかつての日本。
日本が現在に至るまで、厳密な意味で武力を持たずその姿勢を守ってきたとは言えないが、
70年もの長きに渡り、まがりなりにもその高潔な理想論を貫いてきた事を、僕は素直に凄いと思う。
核兵器や殺し合うことの恐ろしさ悲しさを経験談として、そして武器を持たない
という実行動として世界に示せる国であり続けた事を、僕は素直に凄いと思う。
草ひとつ生えないほどに焼き尽くされ、信仰するものさえ根こそぎさらい取られたのに、
それでもいたずらに暴力に走らず、半世紀足らずで世界の最先進に上り詰めるほどの復活を遂げたこの国を、
僕は誇りに思う。
そして、乞い願わくば、これからもそう思える国であり続けて欲しい。
<2015.08.22鑑賞>
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仕事に忙殺されて今までレビューも書き上がらなかったが、
その合間、2015/09/18に安保法案が可決された。
ここで自分の考えを詳しく述べるのは避けるが、
かつて「一切の武器を棄てる」という決断が為された
理由をこのタイミングで振り返ることは極めて重要だ。
相手に拳を振るえるようになるということは、
相手に拳を振るう口実を与えることにもつながる。
政においては今まで以上に慎重に親密に外交を行う努力を怠らないでほしいし
(国会の様子を見る限り、慎重さについては期待できそうもないが)、
個人的にも他国の人々の考え方を理解する努力をしなければと感じる。
作り手と役者の誠実さ
この阿南が、真実の阿南かどうかは別として、画面から作り手と役者の「誠実さ」が伝わってくる。とくに昭和天皇を演じる本木からは、半端な演技はできない緊張に気高さが備わっていて、映画をギュッとしめつける存在であり続けた。
日本人も、外国の方も見て欲しい
このような過程を経て終戦が遂げられたこと、日本人はもちろん、外国の方にも見て、知って欲しい、歴史の一コマです。
但し、阿南陸相の切腹シーンは外国の方には理解不能でしょうし、日本人の自分にも、長くて目を背けたいほどなので、むしろ淡々と死が表現されたほうが良かったかなあと。
いずれにしても、このような邦画の力作が次々に制作されれば嬉しいのですが。
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